博物館ニューストップページ博物館ニュース068(2007年9月15日発行)Q.化石の名前を調べるのに役立つ図鑑を教えてください。(068号QandA)

Q.化石の名前を調べるのに役立つ図鑑を教えてください。【レファレンスQandA】

地学担当 中尾賢一

野外で採集した化石の名前を知りたい(同定したい)と思ったら、多くの人は図鑑で調べることを考えるでしょう。ところが、化石の図鑑類をあたっても、多くの場合、あまり役にたたないと思われます。これには、いくつかの理由があります。

そもそも図鑑の使い方が難しい

図鑑があるから名前か簡単に分かるかというと、必ずしもそうでもありません。たとえば砂浜を歩くと貝殻(かいがら)がたくさん落ちていますが、貝類図鑑を使ってこれらの名前を調べるのは、普通の大学生にとっても決して容易なことではありません。一見似たのがたくさん出ていて、目移りしてしまうのです。

化石は不完全なものが多く、クリーニンクも必要

多くの化石は破片化しており、特に大型の化石では断片的な一部分で判断しなければならないことが普通です。また完全な化石であっても、採集しただけの状態では母岩に覆(おお)われており、観察のポイン卜が限られてしまいます。きちんと化石の名前を調べるためにはよけいな母岩を取り除く作業(クリーニング)が必要になります。

同定に役立つ化石図鑑がほとんどない

化石というのは、地質時代に生息した生物(動物、植物、原生生物、菌類など)の遺骸(いがい)や生活の痕跡(こんせき)です。日本列島に限っても古生代オルドビス紀以降の4億数千万年の歴史があります。これだけの化石を1冊の図鑑に網羅(もうら)することはもともと無理な話です。

市販されている化石図鑑には、おもに復元図が主体のもの(小学館の図鑑NEO「大むかしの生物」など)や状態のよい化石の写真集(たとえば日本ヴォーグ社「化石の写真図鑑-完壁版」)とがあります。この2冊はそれぞれ特徴がある良い本ですが、ともに図や写真を通して古生物についての知見を紹介した本なので、自分で採集した化石の名前を調べるのには役に立たないでしょう。またこれとは別に、市販されている本の中には、著者の不勉強や認識不足により、誤りや不適切な記述が多すぎて全くお薦(すす)めできない写真集(一見すると立派な図鑑)もあります。

同定に最も役立つ図鑑類はどれか

1冊あげるなら、北隆館の「学生版 日本古生物図鑑」です。この本は1982年発行なので学名も古く、モノクロ印刷で、けっして取っつきやすい本ではありませんが、国内の有名産地の大型多産種や特徴種はだいたい掲載(けいさい)されていて、最も使える化石図鑑です。

図 「学生版日本吉生物図鑑Jの表紙

図 「学生版日本吉生物図鑑Jの表紙

なお、比較的新しい時代の地層から出てくる化石なら、生物の図鑑(たとえば貝殻や葉っぱの図鑑など)を使うのもよい方法です。完全に一致するものはなくても、ある程度近い種類を絞り込めることもあります。また、時代やグループ、産地などを限定した図集や論文などが地方出版社や大学・博物館などから出版されていることもあり、このようなものがあれば、同定の苦労はかなり軽減します。

いずれにしろ化石の名前を正確に調べることは、一般にはかなり難しいことで、図鑑でできることは限られています。とくに子どもの自由研究のテーマとしては難易度がかなり高いので、名前にはあまりこだわらず、形の特徴や産出の仕方などに注意を払って調べることをお勧(すす)めします。

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