わがやのぞうに-博物館Vキング「博物館冒険ツアー」の成果から-【CultureClub】
民俗担当 圧武憲子
1 雑煮について
正月につきものの食べ物のひとつに「雑煮(ぞうに)」があげられるかと思います。正月に雑煮を食べるとう習わしは、慶長(けいちょう)8年(1603)の『日葡辞書(にっぽじしょ)』に、「ザウニ」は正月に出される餅(もち)と野菜とで作った食物、と記されていることなどから、17世紀初頭には定着していたものと考えられています。
この雑煮については、日本全国それぞれに地方色のあることが知られており、各地の特徴的な雑煮が、テレビ番組や雑誌などで取り上げられているのを目にすることも多いかと思います。全国的な傾向として、まず雑煮の汁について、醤油(しょうゆ)仕立て(すまし汁)と味噌(みそ)仕立てとする地域に大別され、近畿地方とその周辺で、味噌仕立ての雑煮が多いとされています。また、雑煮に入れる餅(もち)について、西日本では丸餅を、東日本では伸(の)して四角に切った角餅を使うことが多いと言われています。このほか、おとなりの香川県では、雑煮にあん入り餅を入れることがよく知られています。
では、徳島の雑煮にはどのような特色があるのでしょうか?
2 「博物館冒険ツアー」の「わがやのぞうに」
博物館では2005年から、博物館をより楽しく利用してもらうことを目標として、ボランティアスタッフが中心となって行う博物館Vキングというイベン卜を開催しています。2006年の2月12日に開催したVキンクのイベントの一つ「博物館冒険ツアー」では、わがやのぞうにと題して、参加者に自分の家の雑煮について答えてもらうという企画を盛り込みました。楽しみながら自分の家や徳島の習わしについて振り返ってみようというスタッフのアイディアによるものです。実際行ってみたところ、多くの人が興味を持ってくれたようで、よその家の例と比べながら、和気あいあいと自分の家の雑煮について答えてくれました。
3 「わがやのぞうに」のデータ
これまで、徳島の雑煮の特色については、白味噌仕立てて、丸餅を入れる例の多いことが言われています。けれども、近年では地域を越えての人の交流は当たり前になり、各地の習わしは混在しています。加えて食生活はどんどん変化しています。徳島の雑煮の現状がどうなっているか気になるところではないでしょうか? 「わがやのぞうに」を行った結果、大まかではありますが、雑煮について300件を超える情報が集まりました。徳島(厳密にいえば徳島市を中心とした地域)の雑煮の現状をうかがうことができるのではと思い、結果を集計してみました。以下、その紹介をしたいと思います。
「わがやのぞうに」では、雑煮の汁、餅、具の3項目についてアンケ一卜形式で答えてもらいました。382の回答があり、うち徳島県内在住者からは、343の回答がありました(表1)。
表1わがやのぞうに回答者在住地内訳
徳島県内在住者の回答から、まず雑煮の汁について見ていきたいと思います。答えの選択肢(せんたくし)に、白味噌、赤味噌、合わせ、すましの4つを設け、それぞれ自分の家の雑煮に該当するものを選んでもらいました。その結果は、白昧噌との回答が最も多く161、ついで合わせ90、赤味噌62、すまし25となりました(図1)。
つづいては、雑煮に入れる餅の種類です。丸餅、角餅、あん入り餅という3種類の選択肢の中から該当するものを選んでもらいました。結果、丸餅が圧倒的に多く259、つづいて角餅70となりました。このほか、あん入り餅との回答が5、また、丸餅と角餅とした例が2、丸餅、角餅、あん入り餅すべてと答えた例が1ありました(図2)。
図1雑煮の汁についての回答
図2雑煮の餅についての回答
三つ目に雑煮に入れる具についてです。これについては、餅以外に入れる具について、その名称を列記してもらいました。各具材について記された回数を集計し、多い順に並べてみたところ、一番多かったのがダイコン、ついでニンジン、ハクサイ、サトイモの順となりました(表2)
表2雑煮の具についての回答
4 新たにわかったこと
以上まとめて見ると、徳島市を中心とした地域で食べられている雑煮は、汁については白味噌仕立て、入れる餅については丸餅、具についてはダイコンが最も多いという結果が得られました。これまで言われてきた徳島の雑煮の特色を再確認することになりました。
一方、新たにわかったこともありました。例えば、雑煮の具についてですが、「マナ」あるいは「まな」と書かれた回答が徳島市で3、藍住町で1、上板町で2件ありました。目にした時、私はこの「マナ」が何を示すかわかりませんでした。急いでいろいろな人に確認してみたところ、県内には、一般的に「コマツナ(小松菜)」と称している野菜のことを、「マナ」と呼んでいる地域のあることを知りました。
その他、紹介するべき話題、検討を要する問題があリますが、現在、多くの人に参加してもらえた「わがやのぞうに」で得た成果を、よりいっそう徳島についての知識を深める成果につなげたいと考えているところです。
【参考文献】
福田アジオ他編(2000)『日本民俗大辞典下』吉川弘文館
「日本の食生活全集 徳島」編集委員会編(1990) 『聞き書 徳島の食事』農山漁村文化協会