博物館ニューストップページ博物館ニュース069(2007年12月1日発行)クロマダラソテツシジミ(069号野外博物館)

クロマダラソテツシジミ【野外博物館】

動物担当 大原賢二

「ソテツが枯れてしまいそうです」、「学校の校門や校庭の隅(すみ)にあるソテツで小さなチョウが大発生しています」、このようなこユースが鹿児島から寄せられたのは2007年7月ころのことでした。徳島ではソテツそのものがそれほど多い植物ではありませんが、九州や南西諸島などにはよく見られる植物で、公園や学校、役所などにはシンボル的に植えられています。

硬(かた)いソテツの葉を食べる昆虫というのはそう多いものではありません。しかし、新芽は非常に柔らかく、ソテツシジミ(シジミチョウ科)のなかまの幼虫の食草となっています。

図1 ク口マダラソテツシジミのメス。

図1 ク口マダラソテツシジミのメス。

図2ソテツに制止するクロマダラソテツシジミ

図2ソテツに制止するクロマダラソテツシジミ

ソテツシジミのなかまは、ハネを開いたときの大きさが3cmくらいの小さなチョウで、東南アジアに数種が分布しています。日本では沖縄県の八重山(やえやま)諸島で偶発的(ぐうはつてき)に発生した記録がありますが、九州本土での発生というのはこれまでまったく記録がありませんでした。
今回、鹿児島県で発生が確認されたのはクロマダラソテツシジミという種で、タイやフィリピンなどを中心に分布する種でした。ところが、次第に分布を拡大し、1980年代後半には台湾に入リ込み、その後定着しました。与那国島や石垣島などでも数年前に発生した記録があり、2006年の秋から2007年の春にかけて、石垣島では北部を中心に発生していることが知られていました。

しかし、沖縄本島や奄美大島などでの発生の情報がないままに、いきなり鹿児島県本土での発生が確認され、皆驚きました。もしかしたら人が持ち込んだのではないかと疑われましたが、そのうちに沖縄本島や奄美大島などて、も発生していることがわかり、どうやら季節風などに乗って自力で飛来したのであろうということになりました。

図1は、クロマダラソテツシジミのメス成虫で、鹿児島県庁の庭にあるソテツの新芽に産卵中の個体を採集したものです。新芽に産まれた卵は3日ほどで孵化します。幼虫の成育速度はきわめて速く、一世代は20日程度であると考えられます。

図 3 ソテツの新芽を食べる幼虫。

図 3 ソテツの新芽を食べる幼虫。

図4多数の幼虫に食害されたソテツの新芽。

図4多数の幼虫に食害されたソテツの新芽。

成虫はソテツの新芽を求めて広く分散するようで、付近にソテツがない場所でも、いろいろな花で吸蜜しているのが観察されました。とはいってもこれは夏の話です。秋から冬へ向かつて越冬態(えっとうたい)を持たない南方系のチョウが、はたしてこの先どうなっていくのか興味深いことです。

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