東大寺写経所請経文【表紙】
重要文化財(静岡県立美術館蔵)【表紙】
歴史担当 長谷川賢二
静岡県立美術館が所蔵している「藤江家旧蔵小杉文庫」という資料群に含まれているものです。小杉文庫は、幕末から明治時代に活躍(かつやく)した徳島出身の国学者である、小杉榲邨(こすぎすぎむら)(1834~1910)の蔵書の一部にあたります。静岡県の素封家(そほうか)藤江家が晩年の小杉の研究を支援したことから、彼の没後(ぼつご)に譲(ゆず)られました。
小杉榲邨は、1834(天保5)年、徳島城下住吉島に生まれ、1910(明治43)年、76歳で世を去りました。彼は全国各地の旧家や寺社などを訪ねて、古文書・古典籍、金石文等多様な資料を調査、収集したことで知られています。その遺産として著名なのが、膨大(ぼうだい)な史料集『徴古雑抄(ちょうこざっしょう)』です。徳島関係の主要なものが『阿波国徴古雑抄』として刊行されており、今も徳島の歴史研究の必携書(ひっけいしょ)となっています。
さて、写真の資料は752(天平勝宝4)年の東大寺大仏開眼供養会(とうだいじだいぶつかいげんくようえ)に関するもので、造東大寺司写経所(ぞうとうだいじししゃきょうしょ)が外嶋堂(そとのしまどう)と松本宮(まつもとのみや)から経典(きょうてん)を借用し、供養会の終後に返却したこと、このときに阿波国板野郡出身の女性である粟凡直若子(あわのおおしのあたいわくご)が連絡に当たったことが分かります。
この資料は本来、奈良の正倉院文書(しょうそいんもんじょ)に含まれていたものです。故郷である阿波に関する資料という意昧で、小杉が調査に携(たずさわ)わった際に彼の蔵書に加えられたようです。
この資料をはじめ、小杉榲邨ゆかりの資料や阿波の郷土史家の業績などを、企画展「郷土の発見-小杉榲邨と郷土史研究の曙(あけぼの)-」で紹介します。