「日本の地質百選」に宍喰(ししくい)の漣痕(れんこん)が選ばれました【情報ボックス】
地学担当 中尾賢一
日本列島では地震や火山活動、地すべりなど地質災害が頻繁(ひんぱん)に起こっています。一方、景勝地や観光地として親しまれている地形や地質事象もあります。このような日本列島の地質に関する理解の増進をはかるために、特定非営利法人地質情報整備・活用機構と社団法人全園地質調査業協会連合会が全国各地から「日本の地質百選」の公募を行ったところ、400点近くの推薦(すいせん)がありました。関連機関や地質関連の学協会、関係省庁で構成された「日本の地質百選選定委員会」が選定し、昨年5月に第一次選定分(83か所)を発表しました。その中には、富士山(山梨県・静岡県)、華厳(けごん)の滝(栃木県)、鳥取砂丘(鳥取県)、秋吉台(あきよしだい)・秋芳洞(あきよしどう)(山口県)などの地質に関連した有名な景勝地や観光地のほか、佐渡金山(新潟県)や石見(いわみ)銀山(島根県)のような鉱山跡、中央構造線(長野県大鹿村と山梨県早川町の2個所)のような断層露頭(ろとう)、さらには跡倉(あとくら)クリッぺ(群馬県)や市木不整合(いちきふせいごう)(宮崎県)のような専門家以外にはほとんど知られていない露頭も含まれています。
その選定箇所のひとつとして、徳島県内から1件、「宍喰浦舌状(ぜつじょう)漣痕」(宍喰の漣痕:図1)が選ばれました。海部郡海陽町宍喰浦から竹ヶ島方面へ向かう旧国道沿いに露出している有名な露頭で、国指定天然記念物にも指定されています。深海の海底扇状地で形成された地層と考えられており、その年代は微化石の分析から新生代古第三紀始新世(ししんせい)中期(約4000万年前)であることが判明しています。解説書「日本列島ジオサイト地質百選」(図2)によると、宍喰の漣痕は群馬県瀬林などと並んで漣痕としてもっとも見事なものの一つであるとのことです。
図 1 宍喰の漣痕(海陽町宍喰浦、2008年 2月撮影)。
図 2 「日本列島ジオサイト地質百選」地質百選を解説した現時点で唯一の単行本。
社団法人全園地質調査業協会連合会、特定非営利活動法人地質情報整備・活用機構( GUPI)共編、 2007、(株)オーム社発行、 181頁、 2800円(税別)。
博物館の常設展示室入口付近には、現地から直接型どりした複製が開館以来展示されているので、宍喰の漣痕のことはご存じの方も多いでしょう。この複製が作られたのは平成元年なので、ほぼ20年が経過しています。そのため現地と博物館の複製を比較すると実物は明らかに風化が進んでいます。現地で長く良好な状態で観察できることを望みたいものです。
なお「日本の地質百選」として四国ではほかに、 サヌ力イ卜(香川県)、砥部衝上断層(とべしょうじょうだんそう)(愛媛県)、龍河洞(りゅうがどう)、横倉山・佐川、久礼メランジュ(以上、高知県)が選ばれています。