博物館ニューストップページ博物館ニュース070(2008年3月25日発行)Q.絶滅寸前!?祖谷の美味しい珍作物ヤツマタ(070号QandA)

Q&A 絶滅寸前!?祖谷の美味しい珍作物ヤツマタ【レファレンスQandA】

植物担当 茨木靖

「日本に、しかもこの徳島にシコクビ工が残っていたなんて!なんて素晴らしいんだろう!」
もはや日本からこの作物は永遠に消え失せてしまったのに違いないと思い、諦(あきら)めかけていた矢先のことです。テレビ局の方から“ヤツマタ”という作物について問い合わせがありました。はじめは、“ヤツマタ?ミツマタじゃないかしら?”と思っていましたが、お話を伺(うかが)ってみると、それはなんとシコクビエらしいのです。

さっそく調べてみると、ヤツマタとは、シコクビエの祖谷(いや)地方での呼び名で、穂が八本近くに分かれている形状からつけられた名前だとわかりました(図1)。

図 1 シコクビ工の穂

図 1 シコクビ工の穂

シコクビエは、アフリ力のウガンダや工チオピアの高原地帯で紀元前4000年頃に栽培化されたと考えられています。紀元前2000年頃にはインドに伝わり、やがて日本にももたらされました。かつては、日本国内でも各地で栽培されていましたが、現在では非常に稀(まれ)になっているようです。ちなみに、シコクビエという名前は、四国地方で栽培されていたことに基づくとする説や、一升蒔(ま)くと四石採れることに基づくとする説などがありますが、定説はありません。

このシコクビエですが、実は以前実物を見たことがありました。とは言っても、それは日本ではなくネパールでのことです。ネパールでは、この作物を段々畑一面に栽培しています(図2)。あまりに多くて“こんなにシコクビエばかり作って一体どうするんだろう?”と思うほどの作付面積なのですが、その多くはお酒の材料になるようです。蒸したシコクビエの果実に麹(こうじ)を加え、2~3日温めておくとトゥンバと言う少し酸味があるお酒ができます(図3)。栽培時は、まず苗床を作り、後に移植するのですが、これが田植えの起源になったという説もあります。このような栽培方法は、祖谷でも見られるそうで、遠く離れた地域で共通の栽培方法をとることに不思議な感じがします。

図 2 ネパールの棚田。ちょうどシコクビ工の苗を植えたところ。

図 2 ネパールの棚田。ちょうどシコクビ工の苗を植えたところ。

図 3 卜ウンパを飲む。(発酵させたシコクビエの果実にお湯を注ぎ飲む筆者。粒を飲み込まないように専用のストローを使って飲む。)

図 3
卜ウンパを飲む。(発酵させたシコクビエの果実にお湯を注ぎ飲む筆者。粒を飲み込まないように専用のストローを使って飲む。)

さて、話を祖谷に戻しましょう。この話を聞いてから、なんとしても詳しいお話を伺いたくて、直接栽培者の方に電話をしてみることにしました。その方のお話によると、「現在は、祖谷でもほとんど栽培されて居らず、知人が知人にもらって、庭先で種子をつないでいたものをもらった。4升ほどの粒を粉にしたら1.5升になった。4~5月に種子を蒔く。粉を溶(と)いていてクレープ状に焼いたイリモチや団子にすると、とても美味しい」とのことでした。

“なるほど!そんなに美味しいのか!”このお話を伺ってからイメージがどんどん膨(ふく)らんで、今、私の頭の中では、お月様のようなお団子がホワホワ~ッと湯気を上げています。

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