博物館ニューストップページ博物館ニュース072(2008年9月15日発行)那賀町坂州の「三畳紀後期の地層:寒谷層(072号野外博物館)

那賀町坂州の「三畳紀後期の地層:寒谷層【野外博物館】

那賀町(旧木沢村)坂州(さかしゅう)の「三畳紀(さんじょうき)後期の地層:寒谷層(さむだにそう)

地学担当 辻野泰之

旧木沢村役場近くにある坂州橋下の坂州木頭川の両岸は、三畳紀後期の地層の寒谷層がよく露出しており、地層見学を行うには最適な場所です(図1)。 2004年に著者も参加した木沢村の阿波学会学術調査においては寒谷層についていくつかの新知見も得ることできましたので、博物館二ユースで紹介したいと思います。

図1寒谷層が露出する坂州木頭川沿いの様子。

図1寒谷層が露出する坂州木頭川沿いの様子。

寒谷層は地質構造が複雑な秩父帯(ちちぶたい)とよばれる地帯に含まれ、ペルム紀後期(約2億7000万~2億6000万年前)の檜曽根層群(ひそねそうぐん)を不整合(ふせいごう)で覆(おお)う三畳紀後期(約2億2000万年前)の地層です。坂州木頭川沿いにおいて、約50~75mの地層の厚さがあり、主に砂岩や礫岩(れきがん)で構成されています。ここで露出する寒谷層には、 2つの見所があります。

1つ目は、坂州不整合と呼ばれる檜曽根層群と寒谷層が不整合で接する露頭(ろとう)です(図2)。不整合とは、ある地層や岩石が隆起(りゅうき)し、陸上で浸食(しんしょく)され、その上に新しい地層が堆積(たいせき)した場合、新旧の両者の関係のことを言います。坂州不整合は、古生代ぺルム紀と中生代三畳紀の地層の境界を観察できる県内でも貴重な露頭の一つです。この不整合露頭の寒谷層基底には直径約2mの巨大礫を観察できます。この巨大礫は石灰岩(せっかいがん)とチャー卜と呼ばれる岩石の互層でできており、石灰岩の一部には溶食(ようしょく)形態が観察できます。おそらくこの巨大礫は、檜曽根層群が陸地化した際、土石流などで運ばれ、堆積し、地表水によって石灰岩の部分だけが差別的に溶食されたのだろうと考えられています。

図2 坂州不整合の露頭(黄色:不整合面,赤線:巨大磯)写真は石田啓祐氏 (徳島大学)提供。

図2 坂州不整合の露頭(黄色:不整合面,赤線:巨大磯)写真は石田啓祐氏 (徳島大学)提供。

2つ目は、寒谷層の砂岩部分に見られるハンモック状斜交層理(じょうしゃこうそうり)です(図3)。泥や砂礫が水中に堆積する際、水流の影響によって堆積物表面には様々な模様ができます。この模様を堆積構造といい、地層中の堆積構造(たいせきこうぞう)を観察することで、その地層がどのような環境で形成されたかを推測することができます。ハンモック状斜交層理は、台風などの嵐が起こった際、海底面がうねり、作られる堆積構造で、浅海の波浪(はろう)の影響を受ける環境で形成されます。そのためハンモック状斜交層理を地層中で認定することで、その地層が浅海域で堆積したものだと推定できます。坂州橋下の露頭は、私が知る限り県内で唯一、典型的なハンモック状斜交層理が観察できる場所です。また、日本において、ハンモック状斜交層理は新生代の地層や中生代でも比較的新しい白亜紀の地層で多く見られますが、中生代はじめの三畳紀の地層でハンモック状斜交層理が観察できるのは、珍しく、全国的にも数少ない例と思われます。

図3寒谷層のハンモ ック状斜交層理

図3寒谷層のハンモ ック状斜交層理

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