鉄丸石(てつがんせき)【館蔵品紹介】

地学担当 中尾賢一

ここで紹介するのは、丸くて茶褐色(ちゃかっしょく)の石です(図1)。手に取ると、ずしりとした重みがあります。中心に軸(じく)があるため表面にへその穴のような窪(くぼ)みや出っぱりがあります。縦方向の断面では、軸から放射状に伸びる細かい構造も見えます。高知県室戸岬周辺の泥岩(でいがん)の地層に入っており、洗い出されたものが近くの海で拾えます。

図 1 斜め上から見た室戸市産「鉄丸石」。浅い窪みが見える。直径約 13cm。

図 1 斜め上から見た室戸市産「鉄丸石」。浅い窪みが見える。直径約 13cm。

類似(るいじ)の石は千葉県房総半島(ぼうそうはんとう)、神奈川県三浦半島などでも知られており、鉄丸石、へそ石などの名でよばれています。また江戸時代中期の有名な奇石収集家である木内石亭(きのうちせきてい)の旧蔵品の中にも石瓜(せきか)という同様の石があります(図2)。

図2 木内石亭著「雲根志」に描かれた「石瓜」 。生野鉱物館 (兵庫県)にある現物と思われる石とはやや印象が異なる点もあるが“へそ”は明際に描かれている 。

図2 木内石亭著「雲根志」に描かれた「石瓜」 。生野鉱物館 (兵庫県)にある現物と思われる石とはやや印象が異なる点もあるが“へそ”は明際に描かれている 。

鉄丸石の成因として、硫化物(りゅうかぶつ)に富んだ海底の泥から出てくるガスによってて‘きた黄鉄鉱(おうてっこう)のコンクリューション(堆積物(たいせきぶつ)のかたまり)という説(Katto,1965など)、冷湧水(れいゆうすい)の噴出口とする見解(伊藤・高橋、 2008)などがあります。

図1の資料が当館に寄贈されたのは2003年のことで、私にとっては初めて見るものでしたが、何かの動物の巣宍化石(すあなかせき)(生痕化石(せいこんかせき))ではないかと思いました。そこで生痕化石が専門の小竹信宏先生(千葉大学理学部教授)に問いあわせたところ、次のことを教えていただきました。

・問題の石はやはリ生痕化石で、名称はタッセリア(Tasselia isp.)が適切である。
・多毛類の棲管(せいかん)であろうという指摘がある。
・中心部の軸は巣穴と解釈できるが、周辺部に見られる細かい構造の正体はよくわからない
・この類(たぐい)の生痕化石は“珍品”らしく、原記載(きさい)以降は世界各地を見てもほとんど産出の報告がなく、研究も進んでいない。

また、三浦半島産“へそ石”はタッセリアと同じものだろうとの指摘もあります(蟹江、1985)。以上のことから鉄丸石は生痕化石タッセリアに同定できます。その一方で、、コンクリューション化には冷湧水などが関係している可能性もあります。鉄丸石のこれからの解明が待たれます。

参考文献

伊藤剛・高橋秀介、2008.鉱物コレクション入門.築地書館.
蟹江康光、1985. 横須賀の地質.横須賀文化財団協会.
Katto, J., 1965. A note on someconcretions from the Muroto Formation of Kochi Prefecture, Shikoku, Japan. Research Report of Kochi University,Natural Science,28, 1-11.

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