博物館ニューストップページ博物館ニュース075(2009年6月25日発行)Q.ガーとはどんな魚ですか?(075号QandA)

ガーとはどんな魚ですか?【レファレンスQandA】

動物担当 佐藤陽一

今年の春、当館で開催した企画展「シーラカンス展」では、生きたガー(gars)を2種、水槽展示しました(下図)。これらのガーは、いずれも徳島県産で、スポッテドガーは吉野川の池田ダム湖で捕獲されたもの、アリゲーターガーは阿南市の用水路で捕獲されたものです。

図 1 スポッテドガー Lepisosteus oculatus

図 1 スポッテドガー Lepisosteus oculatus

図 2 アリゲーターガー Atractosteus spatula

図 2 アリゲーターガー Atractosteus spatula

しかし、ガーは本来、日本の川にいてはいけない魚です。ガーの仲間は2属7種おり、北アメリカ~中央アメリカ、およびキューバが原産地です。スポッテドガーは全長約1m、アリゲーターガーでは3m を超えるため、飼育には大型の水槽が必要で、個人では飼いにくい魚です。おそらく、飼いきれなくなって野外へ放流されたのでしょう。最近、カミツキガメやアライグマなど、外来動物が問題となることが増えてきています。飼う以上は、最後まで責任をもって飼育したいものです。

それはともかく、ガーはたいへん興味深い魚です。起源が古い魚を古代魚と呼ぶことがありますが、ガーもそんな魚類の一つです。この仲間の化石は、恐竜が生きていた白亜紀の地層から見つかってます。現生種の分布地である北アメリカ以外にも、南アメリカやヨーロッパ、アフリカ、インドからも産出しており、大陸移動を裏付ける一例とされています。

ガーは、イワシやタイなどと同様、骨格が硬骨(こうこつ)からできている硬骨魚類です。ガーは硬骨魚類の中でも原始的な特徴を多く残しています。
例えば、鱗(うろこ)はガノイン層というエナメルに似た硬い物質からなる層に表面を覆おおわれています。このような鱗は、原始的な化石硬骨魚類に多く見られます。硬い鱗に覆われているので、外敵から身を守るうえで優れているように見えますが、その代わり、体を自由に曲げることができないため、敏捷性(びんしょうせい)に欠け、餌(えさ)を高速で追い回して捕食することができません。そのため、ふだんはあまり動き回らず、餌の小魚などが近づくと一瞬だけ素早く動き、餌を捕まえます。細長い嘴(くちばし)のような口には鋭い歯がたくさん並んでおり、一度口に入れた餌は決して逃がさないしくみになっています。

尾鰭(おびれ)を見ると、鰭(ひれ)すじを支える基部の部分が、サメなどの軟骨(なんこつ)魚類のように尾鰭の上縁に沿って延(の)びています。これは脊椎骨(せきついこつ)が未分化(みぶんか)な状態で尾鰭を支える構造になっているためです。高等な大部分の硬骨魚類では、尾鰭を支える脊椎骨は、効率よく推進力を生み出すために、進化の過程で板状に変形し、強化されています。骨格については、尾鰭骨格以外にも多くの原始的な特徴をとどめています。

また、原始的な状態か進化した状態かわかりませんが、鰾(うきぶくろ)が肺のような構造になっているのも、この仲間の特徴です。鰾は消化管と管でつながっており(多くの硬骨魚類では管は存在しない)、内部は胞状(ほうじょう)の構造で、毛細血管(もうさいけっかん)が分布しています。口から飲み込んだ空気をここで呼吸します。ガーの仲間は貧酸素(ひんさんそ)になりやすい湿地などに生息しているため、そのような環境への適応と考えられます。

最後に、もう一つの変わった特徴として、卵が有毒であることがあげられます。卵は緑色をしていて、水草などに卵塊(らんかい)が生み付けられますが、毒物質が含まれていて、ザリガニや哺乳類(ほにゅうるい)に対して強い毒性を示します。しかし、卵を捕食しそうな魚類に対しては毒性を示さず、その役割は謎(なぞ)です。

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