Q.動物の化石のオス・メスを見分けることはできますか?【レファレンスQandA】
地学担当 中尾賢一
今も生きている種や、例外的に条件のよいケース(氷づけのマンモスなど)を除けば、一般には難しいといって良いでしょう。生殖器(せいしょくき)など性別をはっきり示す組織が化石として残りにくいためです。しかし状況証拠から、オス・メスを推定できる場合もあります。ここでは、国内で初めて性差(オスとメスとの違い)が明らかになった脊椎動物(せきついどうぶつ)であるナウマンゾウをとりあげましょう。
今も生きているゾウには、アジアゾウとアフリカゾウがいます。どちらもオスは、メスより長く太いキバ(切歯(せっし))を持っています。ナウマンゾウの場合も、まずキバの違いでオスとメスとが識別できないかどうか検討が行われました。その結果、成長した個体では、オスのキバは太くて長くねじれが強いのに対し、メスのキバは細く短くまっすぐであることがわかってきました。オスと考えられている個体(図1)とメスと考えられている個体(図2)のキバを比べてみると、違いがよくわかります。また、その後の研究で、キバ以外にも頭蓋(とうがい)(頭の骨)や上腕骨(じょうわんこつ)(腕にあたる前足の骨)にも性差があるとされています。
図 1 忠類標本。北海道産。(当館蔵)
図 3 鳴門海峡海底から得られたナウマンゾウの切歯化石。細いものと太いものとがあり,性差を示している可能性が高い。スケールの目盛りは 2cm。
ナウマンゾウの場合、近縁な現生種がいて、そこから得られた情報がオス・メスの識別に役立ったといえます。また、ナウマンゾウは国内で最もたくさん出てくるゾウ化石で、研究がすすんでいることも、オス・メスの違いがわかるようになった大きな理由です。
さらに詳しく知りたい方に
亀井節夫編著.1991.日本の長鼻類化石.築地書館
北川博通.2009.日本古生物学会第157 回例会予稿集.