博物館ニューストップページ博物館ニュース084(2011年9月25日発行)イモの収穫日としての社日(084号情報ボックス)

イモの収穫日としての社日(しゃにち)【情報ボックス】

民俗担当 庄武憲子

「社日(しゃにち)」とは、春分、秋分にもっとも近い戊(つちのえ)の日のことをさします。徳島県では、農業・土地守護の神である「お地神(じじん)さん」をまつる日としてよく知られています。県内のほとんどのムラには、地神塔(とう)が見られます。これは、江戸時代に、『神仙霊宝春秋社日醮儀(しょうぎ)』という書物の序文をもとにして、地神塔を立てることがすすめられたためだとされています。このため、春秋の社日に行われてきた習わしとして、もっともよく聞かれるのが、ムラでおまつりする地神祭で、そのほかの社日の習わしについては、あまり詳しく調べられていないように思います。

私は、徳島にやって来る前、4年間程、サトイモとヤマイモの収穫儀礼についての聞き取り調査に夢中になっていたことがありました。一般に、イモの収穫儀礼は、「芋名月(いもめいげつ)」などの言葉があり、八月十五夜か九月十三夜とされています。ところが、高知県で聞き取りをしていた時に、秋の社日をイモの収穫日としている地域がかなりあることに気づきました(図)。

図 秋の社日における供物(1991年調査による)

図 秋の社日における供物(1991年調査による)

 高知県では、春秋の社日に徳島のように地神のお祭りをするような例はあまり聞かれませんでした。そのかわり、春の社日を農作祈願の日とし、秋の社日を収穫感謝の日としてそれぞれ各家がお供えものをすると言います。

図に見られる秋の社日にイモを供える地域では、例えば「春の社日には作物を植え、秋の社日にはお礼をすると言う。秋の社日には、里芋、甘藷(かんしょ)、栗をゆがいてあちこちの神(村の氏神(うじがみ)、金比羅(こんぴら)、和霊(われい)など)にお供えする。」(四万十町地吉奥組(しまんとちょうじよしおくぐみ) 大正5年生 女性)、「秋の社日には、掘り始めといって、甘藷、里芋を必ずお供えする」(いの町津賀谷(つがのたに) 生年不明 女性)、などという話が聞かれました。なぜ、これらの地域で秋の社日がイモの収穫日とされているのかわからないままでした。ところが、近年、森本嘉訓氏の三好市西祖谷山村重末陰(にしいややまむらしげすえかげ)・重末日浦(しげす えひうら)・冥地(みょうじ)での地神祭についての報告から、「根付きのサツマイモ(秋の社日)」を供える伝統が守られてることを知り、徳島県内でも秋の社日をイモの収穫日としていた所がかなりあったのではないかと思うようになりました。その土地でよくとれる作物を社日の供物としているだけかもしれませんが、何か意味があるようにも思えます。

もし、県内で社日のお地神さんのお祭りに、必ず里芋、甘藷、或いは山芋をお供えする、もしくは、秋の社日をイモの掘り始めとするといった話を聞いたことがあるという方は、筆者までお知らせいただけると幸いです。

参考文献:研究会事務局編「「地神信仰」に関する社日行事・調査報告」(『徳島地域文化研究』第7 号、徳島地域文化研究会、2009 年)

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