遠洋漁業船(えにょうぎょぎょうせん)の航海日誌(こうかいにっし)【館蔵資料】
民俗担当 磯本宏紀
2012年4月2日~7月8日の会期で、部門展示「阿波(あわ)の遠洋漁業」(博物館常設展示室内)を開催(かいさい)しています。この展示では、徳島県出身の漁業者が、東シナ海、黄海(こうかい)等でレンコダイなどの底曳網漁(そこびきあみりょう)や延縄漁(はえなわりょう)にたずさわったこと、カツオの一本釣(つ)りやマグロの延縄漁にたずさわったことなどを紹介しました。
その展示資料の中に、「航海日誌及機関日誌(こうかいにっしおよびきかんにっし)」という資料があります。部門展示で展示したのは1冊だけですが、全部で10冊所蔵しています。いすれも、牟岐町出羽島(むぎちょうでばじま)の船主が所有する船「機付帆船壱号蛭子丸」の航海日誌で、昭和7(1932)年から 12 (1937)年にかけて使用されていたものです(図1)。既製(きせい)の『船用航海日誌』という冊子(さっし)に、船の責任者が航海の記録を書き込(こ)んでいくものです。
図1「航海日誌及機関日誌」当館蔵
図2はその一部ですが、左ページが昭和12年1月4日、右ページがその翌日の1月5日の内容が書かれています。書き込む内容は、航程(こうてい)、針路(しんろ)、時差、天候、気温、風等を1時間ごとに書き込むほか、その日の漁のようすが「記事」として記録されています。たとえば、昭和12年1月4日の場合、6時20分にマグロを釣るための延縄を準備する仕事を始め、8時10分に終わり、10時から延縄を海中に入れ始めています。風がふいて、海上が荒(あ)れていたことなども書かれます。続いて、この日の午前中に海に入れた延縄を、午後2時10分から船に揚げる作業を始め、午後11時10分までかかったと書かれています。また、この日の漁獲(ぎょかく)は、メバチマグロ3本、大きいビンナガマグロ92本、鱶(ふか)(サメ) が3本だったと記されています。
別のページを見ると、この船は神奈川県三浦半島に位置する三崎(みさき)港を基地としたり、牟岐町出羽島を出港した後、現在の阿南市にある津乃峰(つのみね)神社を参拝して安全と豊漁を祈願(きがん)した後に、沖(おき)に向かつて航海したりしていたことが記録されています。こうした資料を、毎日の連続した記録として読み解いていくことで、当時の遠洋漁業船の仕事や航海のようすを知ることができます。
図2昭和12年1月4・5日の記録