徳島県の外来(がいらい)植物【CultureClub】

植物担当 茨木靖

「まるで緑の絨毯(じゅうたん)みたいだ!」。旧吉野川の水門にたどり着いたとき、思わずこう叫(さけ)んでいました。船の周りは川のはずなのに、ボタンウキクサに埋(う)め尽(つ)くされて、まるで陸地のように見えたのです(図1)。ボタンウキクサは、世界の熱帯域に広く分布する水草で、大正末から昭和初期には日本に入ってきたとされます。

図1 ボタンウキクサ

図1 ボタンウキクサ

このように、外国などからその地域に入りこんで野生化してしまった植物を外来(帰化(きか))植物といいます。県内には、1990 年に出版された徳島県植物誌によると、その時すでに308 種類もの外来植物が存在していたことが記録されています。その後も、アメリカカニツリ、ナンカイヌカボ、ナンゴクヒメミソハギ、ニセアゼガヤ、アレチキンギョソウ、ナンカイヌカボ、ホウキヌカキビ、セイヨウウキガヤなど、新参外来植物の発見は、いっこうに収まる気配がありません。

どうやってやってくるの?

外国の植物が日本に入ってくるルートには、羊毛など積み荷に付着して港にもたらされるもの、輸入牧草種子や餌(えさ)と共に牧場に入り込(こ)むもの、園芸用土に混入するもの、観賞用植物を捨てたり植えたりしたものなどがあります。とくに近年では、道路の法面緑化(のりめんりょっか)のために日本国産と同種の外国産植物の種子が多く用いられ、外来種(がいらいしゅ)の侵入(しんにゅう)ルートの一つになっています。法面への種子の吹(ふ)きつけは、自然度の高い山中などに直接外来種が侵入するので、自然環境(かんきょう)に与える影響(えいきょう)も大きいと思われます。

外来植物の影響は?

外来植物の影響としては、ボタンウキクサのように水面全体を覆(おお)い尽くすなどして、在来種(ざいらいしゅ)の生育する場所を奪(うば)う、それまで国内に無かった病気や害虫を外国から持ち込む、畑や田んぼで大繁殖(はんしょく)して農作業に影響を与えるなどの問題があります。また、外来種が元々あった在来種と交雑(こうざつ)し、遺伝的な汚染(おせん)が起こってしまうことも深刻な問題と言えます。具体的には、栽培種(さいばいしゅ)のキクが、在来のシオギクと交雑してしまっていることが知られています。

外来植物による社会的ダメージと特定外来生物

近頃(ちかごろ)では、特定の外来種が爆発(ばくはつ)的に増殖(ぞうしょく)し、大きな経済的影響を起こすといった社会問題も報道されるようになってきました。例えばボタンウキクサなどでは、増殖した個体を取り除くために、多額のお金が使われたことが、新聞やテレビでも取り上げられました。このような特に社会的影響の大きいボタンウキクサやナルトサワギク(図2)などは、外来生物法(がいらいせいぶつほう)(正式名称:特定外来生物による生態系(せいたいけい)等に係る被害(ひがい)の防止に関する法律)によって、特定外来生物(同法が定める、生態系、人の生命・身体、農林水産業へ被害を及(およ)ぼすもの、または及ぼすおそれがある外来生物のこと)に指定されていて、栽培、保管、輸入、譲渡(じょうと)そして、野外に捨てることなどが禁止されています。

図2 ナルトサワギク

図2 ナルトサワギク

国内外来生物

外来種と言えば、外国からやってくる植物のように思われがちですが、国内の他の地域から持ち込まれる植物(国内外来生物)も、同じように大きな影響を与える可能性があります。国内からの移入の場合、その植物が徳島県の在来種か外来種かを特定しにくいですし、さらに在来種と同種の場合は、両者の交雑により遺伝的な汚染が起こる可能性も考えられます。例えば、佐那河内村(さなごうちそん)で見つかったエゾヌカボ(図3)は、本来北海道から東北地方にのみ分布する植物で、本県には存在しないはずです。しかし、これを客観的に外来植物であると証明するためには、とても多くの労力が必要になります。

図3 エゾヌカボの標本

図3 エゾヌカボの標本

まとめ

現在、日本国内には、1200種以上ともいわれる帰化植物があるとされています。日本には、シダ植物も含めるとおよそ4500種の植物があるとされていますので、帰化植物の占(し)める割合の大きさが改めてわかるでしょう。外来種に対しては、常に新しい情報の収集を行うことと、その影響の正しい判断と対応、そして、必要によってはその除去などの適切な対策が求められます。

カテゴリー

ページトップに戻る