鳴門市千鳥ヶ浜に漂着したイチョウハクジラの解剖調査【速報】
動物担当 佐藤陽一
2012年9月5日、鳴門市大毛島(おおげしま)の鳴門海峡(かいきょう)に近い千鳥ヶ浜に1頭のクジラが漂着しているのが発見されました。当初、普通種のツチクジラと思われていたのですが、マスコミ報道を見た国立科学博物館の山田格(ただす)脊椎(せきつい)動物研究グループ長が、希少種(きしょうしゅ)のイチョウハクジラの可能性が高いことに気づき、急きょ現地で合同の解剖調査を行うことになりました。その様子をご紹介します。
漂着したイチョウハクジラ(2012 年 9 月 6 日)
図1 漂着したイチョウハクジラ(2012 年 9 月 6 日)。インド洋から太平洋の熱帯・温帯に分布するアカボウクジラ科の一種で、発見例が少ないことから、生態がよくわかっていません。もっとも報告が多いのは日本で、それでも漂着の事例はせいぜい 10 数例程度です。今回、現地で解剖したイチョウハクジラは、骨はすべて回収し、当館で組立骨格標本(くみたてこっかくひょうほん)として保管することになりました。骨髄(こつずい)中の油を抜いたり、骨格をきちんとくみ上げたりするために、1年ほどかかる予定ですが、完成したら皆さんにお目にかけたいと思います。
図2 体表面の様子。円形の白いまだら 模様は、深海性の小型ザメ・ダルマザメに囓(かじ)られて治癒した跡です。
図3解剖(かいぼう)のため波打ち際から重機で解剖サイトまで移動させます(2012年9月 7日)。体長 4.8 m のオスの成獣でした。
図 4 イチョウハクジラの名前の由来は、オスの成獣の下あごに 1 対のイチョウの葉に似た形の歯があるためです(メスには歯がありません)。しかし、肉が付いている状態では、歯の先端がわずかに出ているだけなのでほとんどわかりません。
図5 内臓はすべて取り出して、国立科学博物館の研究室に持ち帰り、あとで詳しく調べます。その他に、各組織もサンプリングして愛媛大学の研究グループが環境汚染の調査のため持ち帰りました。
図 6 取り出された腸管(ちょうかん)です。あとで内容物を調査します。