博物館ニューストップページ博物館ニュース090(2013年3月25日発行)瓦(かわら)は何を語るのか?(090号CultureClub)

瓦(かわら)は何を語るのか?【CultureClub】

考古担当 岡本治代

はじめに

文化の森周辺の家なみをながめてみると、色鮮(あざ)やかなスレート葺(ぶ)きの屋根に混じって、日本風の瓦葺き屋根も多くみられます。このような、屋根に瓦を葺く技術が日本にもたらされたのは、今から1430年ほど前のことでした。

瓦登場

瓦造りの技術は、577年、お寺を造る技術の一環(いっかん)として、朝鮮半島の百済(くだら)から日本へもたらされました。この技術を用いて、588年、聖徳太子(しょうとくたいし)(厩戸王子(うまやどのおうじ )は、現在の奈良県高市郡明日香村(たかいちぐんあすかむら)に法興寺(ほうこうじ) (飛鳥寺(あすかでら))を建立(こんりゅう)します。これが日本における瓦屋根のはじまりでした。
飛鳥寺の創建以後、大和(やまと) (現在の奈良県)を中心とする当時の政治の中枢部(ちゅうすうぶ)においては、多くの瓦葺き寺院が建立され、次第(しだい)に瓦葺きは天皇の住まいである宮(みや)や、役所、貴族の屋敷などへと広がっていきます。

地方への瓦のひろがり

一方、阿波(あわ)のような地方の国々で本格的に瓦 造りが導入されるのは、7世紀後葉からです。これは、地方において有力者たちが古墳(こふん)造営を停止し、それに代わるように寺院造営が活発化することに対応するものでした。

745年、聖武天皇(しょうむてんのう)は各国に官営の寺院である国分寺(こくぶんじ)・国分尼寺(こくぶんにじ)を建立するように命じ、これに応じて各国に国分寺・国分尼寺が建立されます。さらに、8世紀後半には各国の国庁(こくちょう)(地方の役所、いまの県庁舎のようなもの)も瓦葺きになっていきました。

このようにして、地方においても瓦葺き建物が広がっていきました。ただし、古代においては瓦葺きになったのは寺院や政治に伴(ともな)う施設(しせつ)のみで、それ以外の建物は依然(いぜん)として植物性の材料で屋根を葺いていました。

図1 屋根瓦の名称(神奈川県立博物館 1992『瓦が語る-かながわの古代寺院』:P98 図1

図1 屋根瓦の名称(神奈川県立博物館 1992『瓦が語る-かながわの古代寺院』:P98 図1

 

徳島県の屋根瓦

それでは、阿波の古代瓦はどのようなものだったのでしょうか。図4は現在までに見つかっている、古代寺院跡(あと)やその関連遺跡(いせき)の分布を示したものです。ここでは、これらの遺跡から出土した瓦のうち、徳島県立博物館が所蔵している軒丸瓦(のきまるがわら)・軒平瓦(のきひらがわら)(図1参照)の一部を紹介しましょう。

郡里廃寺(こおざとはいじ)の瓦(図2-1・2)

徳島県でもっとも古いと言われるのが、7世紀に建立されたと考えられている美馬市郡里廃寺の瓦です。郡里廃寺の瓦で注目されるのは、郡里廃寺と同じ模様の瓦が、他地域の遺跡からも見つかることです。図2-1は、阿波国内では阿南市立善寺跡(りゅうぜんじあと)でみつかっているほか、土佐(とさ)(高知県)の秦泉寺廃寺(じんぜんじはいじ)・野田廃寺(のだはいじ)・野中廃寺(のなかはいじ)でも出土しています。また、図2-2は、讃岐(さぬき)(香川県)の極楽寺跡(ごくらくじあと)・弘安寺跡(こうあんじあと)で出土しています。

阿波国分寺(あわこくぶんじ) ・国分尼寺(こくぶんにじ)の瓦(図2-3・図3)

一方、8世紀中葉に建立された官営寺院である、阿波国分寺・国分尼寺の瓦はどのようなものだったのでしょうか。

図2-3・図3の瓦は、徳島県立徳島工業高校からの寄贈(きぞう)資料であり、正確な出土位置はわかりません。しかし、採集者によるものと考えられる資料への書きこみなどから、それぞれ阿波国分寺・如意寺跡(にょいじあと)から出土したものと推定(すいてい)され、これらと同じ模様の瓦が、阿波国分寺・国分尼寺でも出土しています。さらに、このような模様は、大阪府難波宮跡(なにわのみやあと)や奈良県平城京跡(へいじょうきょうあと)に葺かれた瓦のものとよく似ており、阿波以外の国から導入されたものと考えられます。

図2 軒丸瓦 1・2郡里廃寺 3阿波国分寺跡 

図2 軒丸瓦 1・2郡里廃寺 3阿波国分寺跡

 

図3 軒平瓦 如意寺跡

図3 軒平瓦 如意寺跡

おわりに

このように、同じ模様の瓦が阿波以外の国に存在する背景には、どのような事情があるのでしょうか。徳島県の瓦がもつ情報を読み解いていけば、文献(ぶんけん)資料だけではわからない飛鳥時代・奈良時代の徳島県の歴史を明らかにすることができるでしょう。今後、さらに研究を進めたいと思っています。

図4 阿波の古代瓦出土遺跡・関連遺跡 徳島県博物館 1974『阿波の古代寺院』所収の図「阿波の古代寺院分布図」を再トレースし、一部改変

図4 阿波の古代瓦出土遺跡・関連遺跡 徳島県博物館 1974『阿波の古代寺院』所収の図「阿波の古代寺院分布図」を再トレースし、一部改変

 

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