ウミタケとその化石【野外博物館】
地学担当 中尾賢一
ウミタケは、今年の春の企画展「いただきま~す! 食の生活史と自然誌」で福岡県柳川市(やながわし)周辺の特徴的な海産物のひとつとして取り上げました。今回は、この貝の生物としての側面や、化石からわかることなどを紹介します。
ウミタケ(図1)は、殻に入らないほど長い水管(すいかん)を持ち、干潟や水深20mまでの泥質な砂底に30~50cm ほどの深さにもぐって生活しています。海底面にいったん体が洗い出されると、再びもぐることはできず死んでしまいます。殻はごく薄く、よく膨(ふく)らみ、前後が大きく開いています。多数生息しているのは、柳川市沖など有明海北部だけですが、分布域は広く、日本では北海道南部以南~九州の海域で記録されており、筆者も徳島市の小松海岸で貝殻を拾ったことがあります。
図1 鮮魚店店頭のウミタケ(福岡県柳川市の鮮魚店)
ウミタケの化石は、新第三紀鮮新世(しんだいさんきせんしんせい)後期~第四紀(だいよんき)の千葉県以南の浅海の地層から産出します。県内では徳島平野や那賀川平野の地下の地層(海成沖積層、数千年前)から化石が得られています(図2)。
図2 各地のウミタケ化石
1:北有馬層(長崎県南島原市、約 80 万年前)
2:渥美層群豊橋層(愛知県田原市、約 30 万年前)
3:那賀川平野の海成沖積層(阿南市桑野川地下、約 6000 年前)
ウミタケの化石の多くは、生息時の姿勢を保った状態で地層の中から見つかります(図3)。このような化石の状態から、当時もいまのウミタケと同じように深くもぐって生活していたことや、そのおかげで海底に洗い出されることがあまり多くなかったことがわかります。
図3 斜め上からみた地層中のウミタケ化石(豊橋層)