Q.昨年発表された那賀町で見つかったアンモナイトは、学術的にどのような点が、すごいのですか?【レファレンスQandA】
地学担当 辻野泰之
A. 昨年、新聞やテレビなどで、那賀町(なかちょう)(旧・木頭村(きとうそん))で発見されたアンモナイトが大きく取り上げられました。しかし、この発見の学術的な意義について十分に伝わっていない点もあるかと思いますので、改めて説明します。
那賀町には、三畳紀(さんじょうき)と呼ばれる時代の地層が散在的に分布しており、二枚貝化石の産出が古くから知られています。しかし、示準化石(しじゅんかせき)(※)として有効なアンモナイトの産出は、非常に稀(まれ)で、アンモナイトの種類が特定できたものは、1964年に報告された1種のみでした。
しかし、2007年に那賀町の三畳紀の地層から化石愛好家によってアンモナイトが発見され(図1)、当館に寄贈されました。その後、当館や国立科学博物館などが共同で研究を進めた結果、シレニテス・センティコサス(Sirenites senticosus)という種類だと判明しました(図2)。この種類は、これまでヨーロッパ・アルプス地方と中国南部の三畳紀後期(約2億3400万年前)の地層だけから産出しており、那賀町のアンモナイトを含む地層も約2億3400万年前にできたものだと分かりました。
図 1 那賀町の化石産地の様子
図 2 那賀町で発見された約 2 億 3400 万年前のアンモナイト:シレニテス・センティコサス
約2億3400万年前当時、地球上にはすべての大陸が集まってできたパンゲア大陸が存在し、その大陸に取り囲まれるように、テチス海が広がっていました(図3)。テチス海は、赤道周辺に位置することから温暖な海だと考えられています。シレニテス・センティコサスは、主にテチス海に生息しており、その東端の先にある日本近くまで分布を広げていたことが分かります。一方、那賀町のシレニテス・センティコサスと同じ地層から産出する二枚貝化石の種類は、北方のシベリア地域で産出するものと似ています。そのことから考えると、当時の日本周辺は、南方系と北方系の両方の生物グループが入り混じる地域だったのかもしれません。
図 3 三畳紀後期(約 2 億 3400 万年前)の古地理図
※ 示準化石(しじゅんかせき):地層のできた時代を決定することができる化石