祖谷(いや)のジャガイモ【情報ボックス】
民俗担当 庄武憲子
博物館では、平成26 年度から祖谷地方の在来作物(ざいらいさくもつ)というテーマで調査を始めました。7月15日~18日にかけての1 回目の調査で、祖谷在住の方々(かたがた)から、ちょうど収穫(しゅうかく)の時期であったジャガイモについての話を聞いたので紹介します。
祖谷地方でジャガイモの栽培(さいばい)が始まったのは、万延元年(まんえんがんねん)(1860)頃とされています。古くから伝わるジャガイモが現在も残っており、一般的なジャガイモに比べて小さく、煮(に)くずれしにくく、田楽(でんがく)やおでんなどの調理法に適している特徴があるといわれています。1997 年度から商品化への取り組みを開始し、「源平(げんぺい)いも」の名で商品化されています。
ただ、祖谷の人たちは、さまざまな品種のジャガイモをこれまでいろいろと試しつつ、祖谷に特徴的なジャガイモを、現在まで作り続けてきたようです。
図1 は、東祖谷中上(ひがしいやなかうえ)で掘りあげてもらったジャガイモです。作り主(ぬし)は、左の赤いイモを「アカイモ」、右の白いイモを「ホドイモ」と呼んでいます。アカイモは、掘りあげて保存しておき、冬を越(こ)した頃になると甘みが出ておいしくなるといいます。ホドイモの方は掘ってすぐ食べてもおいしいそうです。また、アカイモとホドイモが混じるといけないので、離れた場所で栽培をしています。
図1 東祖谷山中上 左:アカイモ、右:ホドイモ
図2 は西祖谷山村重末(にしいややまそんしげすえ)で収穫をしていたジャ ガイモです。今年は東祖谷からもらってきた「コフキイモ」というジャガイモを作ったそうです。こちらで昔から作っていたジャガイモは「トサホド」と呼ぶジャガイモで、花が咲かず、収穫してから4 月まで保存して置いても、イモにシワがよらない特徴があるそうです。ただ、栽培中に土の中でイモが腐(くさ)りやすいという欠点があり、種芋(たねいも)は残しているけれども(図3)、今年は植えなかったそうです。
図 2 西祖谷山村重末 コフキイモ
図 3 西祖谷山村重末 種芋として保存しているトサホド
その他、東祖谷栗枝渡(ひがしいやくりしど)では、「オクイモ」と呼ぶ、イモが小さくねっとりとしたジャガイモと、「アカイモ」と呼ぶ、収穫したすぐはエグ味(み)があるが、保存しておくと甘みが出てくるというジャガイモを作っているという事でした。
いろいろ話を聞いてみると、祖谷の人たちは、イモが小さくて固く、煮くずれしにくい、収穫してから長期保存(ちょうきほぞん)が利(き)くというタイプのジャガイモを、祖谷に適したジャガイモとして栽培してきたようです。 今後調査をすすめ、祖谷に特徴的な作物とそこにつまった人々の知恵についてまとめたいと考えています。
参考文献:井内美佐・小川純一 2000「徳島県在来バレイショの系統分類と種苗生産」『徳島農試研報』(36):7~17