博物館ニューストップページ博物館ニュース098(2015年3月25日発行)南ドイツのジュラ紀の化石産地(098号CultureClub)

南ドイツのジュラ紀の化石産地【CultureClub】

地学担当 辻野泰之

2014年9月7日から9日まで、スイス・チューリッヒのチューリッヒ大学において第9回国際頭足類(とうそくるい)シンポジウムが開催されました。「頭足類」とはタコやイカの仲間の総称で、絶滅(ぜつめつ)した生物のアンモナイトなども含まれます。また、このシンポジウムに合わせて、地質見学会が催されました。今回は、シンポジウム開催前に南ドイツに分布するジュラ紀の地層の見学会が実施され、筆者も参加しましたので、南ドイツの代表的な化石産地(図1)を紹介したいと思います。

図1 南ドイツのジュラ紀の化石産地

図1 南ドイツのジュラ紀の化石産地

ホルツマーデン

ドイツ・シュトゥットガルトから約30km南東に位置するホルツマーデンには、ジュラ紀前期(約1億8000万年前)の地層が分布しています。この化石産地は、19世紀末に採掘業を始めたハウフ家族が、皮膚(ひふ)の痕跡(こんせき)まで残されている保存良好な魚竜(ぎょりゅう)や首長竜(くびながりゅう)などの化石を見出したことから、広く知られるようになりました。地層は、油分を多く含んだ黒色頁岩(こくしょくけつがん)(泥岩(でいがん)の一種)で、ポシドニアとよばれる二枚貝化石を多く含むことからポシドニア頁岩と呼ばれています。

見学会で訪れた場所は、採石場の一部を一般に開放しているもので、2~3ユーロを払うことで誰でも化石採集を楽しむことができ、当日も多くの親子連れが化石採集を楽しんでいました(図2)。魚竜や首長竜のような脊椎(せきつい)動物化石はめったに見つけることはできませんが、筆者を含めシンポジウム参加者の多くが、アンモナイトやベレムナイト(イカの仲間)を採集していました(図3)。化石産地近くには、ハウフ家族の化石コレクションが展示されているハウフ博物館があり、目を見張るような保存の良い化石を見学することができます(図4)。

図 2 ホルツマーデンの化石産地の様子

図 2 ホルツマーデンの化石産地の様子

 

図 3 黒色頁岩中に含まれるアンモナイト

図 3 黒色頁岩中に含まれるアンモナイト

図 4 ホルツマーデンの化石が展示されているハウフ博物館

図 4 ホルツマーデンの化石が展示されているハウフ博物館

 

ドターンハウゼン

ドターンハウゼンは、ドイツ・シュトゥットガルトから南西へ約80km のところにある町で、町の中にはセメント会社の大規模な採石場があります。この採石場には、ホルツマーデンとほぼ同じ時代のジュラ紀前期の地層が露出しており、保存状態のよい化石が多く産出しています。また、このセメント会社が設立した博物館もあり、採石場から産出した多数の化石を見ることもできます。博物館の敷地内には、採石場から運搬された頁岩が集められたスペースがあり、誰もがハンマーやタガネを使って頁岩を割り、化石採集することができます(図5)。

図 5 博物館の敷地内にある化石採集場

図 5 博物館の敷地内にある化石採集場

今回は、セメント会社の計らいで採石場に入ることができ、広大な採石場内で地層見学と化石採集をすることができました(図6)。化石採集場所は、現在でも稼動(かどう)している採石場ということもあり、新しい露頭(ろとう)からアンモナイトやベレムナイトなどの多数の化石を採集することができました。

図 6 セメント会社の採石場内で化石採集する様子

図 6 セメント会社の採石場内で化石採集する様子

ゾルンホーフェン

ゾルンホーフェンは、ドイツ・ミュンヘンから北西へ110km ほどのところにある小さな町です。町近くのアルトミュート渓谷沿いの台地上には、石材を採掘する多くの採石場があり、クリーム色をした石灰岩(せっかいがん)が切り出されています。この石灰岩はゾルンホーフェン石灰岩と呼ばれ、今から約1億5000万年前のジュラ紀後期の地層です。

板状に割れることから、古くは石版印刷用の石版として利用されました。ゾルンホーフェンを化石産地として世界的に有名にしたのは、最古の鳥化石の始祖鳥(しそちょう)の発見です。始祖鳥は、現在までに11体(羽毛(うもう)化石を除く)が見つかっており、ゾルンホーフェン近郊の博物館にも始祖鳥の標本が数点展示されており、実物の始祖鳥を見ることができます。

地質見学会では、ゾルンホーフェン近郊にある二ヵ所の化石産地を訪れました。一ヵ所目は、ゾルンホーフェンから南へ7km ほどのミュールハイムという町の丘陵地にある化石採集場です。数ユーロの料金で誰でも化石採集ができ、当日も多くの人が訪れていました(図7)。二ヵ所目は、ゾルンホーフェンとランゲナルトハイムという町の中間にある大規模な砕石場です(図8)。この砕石場からは1861年にロンドン標本と呼ばれる保存状態が良い始祖鳥が発見されています。あいにく地質見学会では、始祖鳥を発見することはできませんでしたが、浮遊生(ふゆうせい)ウミユリや魚の糞(ふん)などの化石を見つけることができました。

図 7 ミュールハイムにある化石採集場

図 7 ミュールハイムにある化石採集場

 

図 8 ゾルンホーフェンとランゲナルトハイムの間にある石材を切り出している採石場。

図 8 ゾルンホーフェンとランゲナルトハイムの間にある石材を切り出している採石場。以前、始祖鳥が発見されている。これらの化石産地や博物館は、化石の専門家でも一度は訪れてみたいと思う場所です。皆さんも、もし南ドイツに行く機会があったら、訪れてみてはいかがでしょうか?

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