中川健氏の徳島県産昆虫標本【新着資料紹介】
動物担当 山田量崇
昨年の8月、故中川健氏(名西(みょうざい)郡石井町)の昆虫標本がご遺族の皆様から当館に寄贈されました。標本はおよそ11,000点。約900冊の文献も合わせれば、20,000点もの大規模な寄贈となりました。
高校教員だった中川氏は、趣味の時間を昆虫採集に充て、休日になると網を持って、時には家族とともに県内を走り回っていたそうです。学会や同好会などには所属していなかったようですが、残された手紙からは、県内外の同志と頻繁に情報交換をしていたことがうかがえます。
コレクションの大部分を占めるのが甲虫類で、とくにカミキリムシやオサムシの標本が目立ちます。一方で、氏の興味は甲虫に留まらず、チョウやトンボ、セミなどにも及び、特定のグループに偏ることなく集められていることがわかります。このコレクションの特徴は、ほぼすべてが徳島県産の標本であることです。地元の昆虫をまんべんなく採集されていることは特筆すべきで、幅広く集められた氏のコレクションは徳島県の貴重な財産になるばかりか、自然環境の保全を考えるための基礎資料にもなります。
また、標本はきちんと展足され、手書きの採集ラベルはもちろん、個体によっては同定ラベルも付けられています。そして、驚いたことに、氏の標本は害虫やカビによる被害がほとんどなく、良好な状態で保たれていました。博物館のような専門の標本室がない一般の家庭では、どうしても標本の劣化は避けられません。温湿度の管理や防虫など、おそらく細心の注意を払いながら持続的に管理していたのではないでしょうか。
故中川健氏のコレクションは、今後、博物館の展示や調査研究へ利用できるものになるでしょう。そして、何よりも徳島県の昆虫の研究に広く活用されることを願っています。貴重な標本を快くご寄贈くださったご遺族の皆様に心から感謝いたします。
図 2 丁寧に作られたラベル。すべて手書き。
図 3 未整理標本にもしっかりとデータが記されている。