イタコルマイト【館蔵品紹介】
地学担当 中尾賢一
イタコルマイトは、一定の範囲内でゆるやかに 曲げることができる性質(撓曲性(とうきょくせい))をもった岩石です。コンニャク石ともよばれます。産地のブラジル・ミナスジェライス州のイタコルミ山にちなむ名前です。インドやマダガスカルなどからも産出することが知られています。
産地によって岩石の種類や性質がやや異なります。ブラジル産(図1上)は石英質の砂質片岩(さしつへんがん)、インド産(図1下)は石英砂岩(せきえいさがん)(コーツァイト)ですが、どの産地のものでも、石英砂岩質のもろい岩石という点では一致しています。なぜ、このような性質が現れるのでしょうか。
図1 イタコルマイト。ブラジル産(上)とインド産(下)。インド産の標本の長さ24cm。
イタコルマイトの石英の個々の粒子(りゅうし)にはかなりの凹凸(おうとつ)がある一方で、粒子どうしの間に隙間(すきま)があり、隙間が許す範囲で動くのです。ジグソーパズルのピースどうしの間に隙間があるような状態です。一粒の動きはわずかですが、数10cm大の岩石になると、実感できるほどの動きになります(図2)。
図2 たわんだ状態のイタコルマイト。長さ24cm。
イタコルマイトは、極(きわ)めてもろく、壊(こわ)れやすい岩石です。手に持って少しの力をかけると、たわんだり、しなったりするのが実感できますが、力を入れすぎると簡単に割れてしまいます。そのため、博物館などで「おもしろい石」「かわった石」としてとりあげられることがありますが、おもしろさが直接伝わるような展示はなかなか難しいです。
実用的な面では、加工が簡単である半面、崩(くず)れやすく、水が浸透(しんとう)するなどの欠点があります。しかし、やわらかいセラミックスや人口石材など、新しい素材を開発するヒントになっているようです。