博物館ニューストップページ博物館ニュース107(2017年6月25日発行)Q.表面が黒っぽくすすけた木の板に何が書いているかを知りたいのですが?(107号QandA)

Q.表面が黒っぽくすすけた木の板に何が書いているかを知りたいのですが?【レファレンスQandA】

考古・保存科学担当 植地岳彦

博物館には「木の板に墨書(ぼくしょ)された文字を読むことができますか」という相談が年に数回寄せられます。この場合、難しい文字だから読めないというのではなく、板の表面を覆(おお)うススやホコリが原因で、不鮮明(ふせんめい)となっているので読めないという事例が大半です。このような資料には、古い建物から見つかった棟札(むなふだ)や、遺跡(いせき)から出土した木簡(もっかん)、大切なものを入れておく木箱などがあります。そこに記された文字は、その資料の歴史や文化的背景を伝える大切な手がかりなので、何とか読めるようにしたいものです。

こんな時に活躍(かつやく)するのが赤外線カメラです。赤外線は人間には見えない光のようなもので、ものに当たると吸収されたり反射したりしますが、薄(うす)いもので吸収されなければ透過(とうか)する性質があります。赤外線カメラはこのような現象を人間の目にも見えるように映像化する装置で、文化財の調査でもよく利用されます。

墨書された木の板を例にすると、可視光線(かしこうせん)(目に見える光)は表面を薄く覆うススやホコリによって反射・吸収されてしまうので、肉眼では板と墨の差を見分けることは難しい状態です。赤外線は、ススやホコリを透過した後、板に達したものは反射し、墨(すみ)に当たったものは吸収されます(図1)。赤外線カメラはこの様子について、板の部分は反射する赤外線をとらえ明るい場所として白く、赤外線を吸収する墨の部分は暗い場所として黒く映像化するのです。

図 1 赤外線と可視光線の違い

図 1 赤外線と可視光線の違い

図2 の写真は調査例です。①は、通常のカメラで撮影(さつえい)したもので、木箱の一部に、文字が書かれていますが不鮮明です。②は赤外線に感度があるカメラで撮影した画像ですが①と差がなく、墨書は不鮮明です。③は②と同じカメラで、室内を真っ暗にし、赤外線ライトのみで撮影した画像です。赤外線だけで得られた画像ではススやホコリといった邪魔(じゃま)がなくなり、墨書は鮮明に映ります。

図 2 赤外線写真の例

図 2 赤外線写真の例

どんな資料も鮮明に見えるわけではありませんが、すすけて読み難い棟札などがあればお気軽に博物館までお問い合わせください。私たちと共に赤外線カメラで調査してみましょう。

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