ワラスボの仲間【野外博物館】

動物担当 佐藤陽一

 ワラスボの仲間はウナギのように細長い体形をしており、背びれと尻びれの基底が長く、しかも尾びれと連続しています。しかし、左右の腹びれが合わさって吸盤状(きゅうばんじょう)になっていることからハゼ科の魚であることがわかります。日本には5種が分布しますが、泥や砂底(すなぞこ)中に潜んでいるので、ふだん直接目にすることはめったにありません。

 ワラスボの仲間でもっともよく知られているのが日本では有明海だけに生息するワラスボでしょう(図1)。おもに有明海北部湾奥部の軟泥干潟(なんでいひがた)に生息します(東部の諫早湾(いさはやわん)も生息地でしたが干拓(かんたく)事業でほとんど消滅しました)。眼がとても小さく、両顎(りょうあご)に小さな犬歯(けんし)がずらっと並んでいる様は、ちょっとグロテスクで、SF映画エイリアンにでてくるチェストバスター(エイリアンの幼体)を思わせます。ワラスボは軟泥中にいくつも枝分かれした深さ30cm ほどの巣穴を掘って生活をしており、満ち潮時に出てきて貝や小魚、甲殻類(こうかくるい)、頭足類(とうそくるい)などを食べているようです。

図1 有明海のワラスボ(福岡県柳川市、中尾賢一氏撮影)

図1 有明海のワラスボ(福岡県柳川市、中尾賢一氏撮影)

 さてこのワラスボ、佐賀県では漁獲されて、刺身、煮付け、干物などにして食べられています。もっとも一般的なのが干物で、土産物としても販売されています(図2)。軽く炙(あぶ)ると、くせがなくてとても美味しいです。皆さんも機会があったらぜひ食べてみてください。

図 2 ワラスボの干物

図 2 ワラスボの干物

 ところでワラスボの仲間は徳島にも生息しており、チワラスボと言います(図3)。やはりワラスボと同じような体型をしており、下顎に短い髭ひげが3対あるのが特徴です。大きさはワラスボに比べてだいぶ小さく、ワラスボが全長40cmくらいなのに対し、チワラスボはせいぜい20cm程度です。棲(す)んでいる場所もちょっと違って、ワラスボがドロドロの軟泥質の干潟なのに対し、チワラスボは砂の混じった泥質干潟(でいしつひがた)とその周辺です。徳島県では吉野川、旧吉野川、那賀川の河口などに分布します。

図 3 チワラスボ(旧吉野川産)

図 3 チワラスボ(旧吉野川産)

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