モロッコ南東部の恐竜化石産地【野外博物館】
地学担当 辻野泰之
2017年3月上旬、名古屋芸術大学との共同研究の一環で、モロッコ南東部のいくつかの化石産地を訪れました。その一つの化石産地をここで紹介したいと思います。
紹介するのは、モロッコとアルジェリアの国境付近に位置するケムケム(KemKem)と呼ばれる地域の化石産地です(図1)。周辺は見渡す限りの砂漠で、サハラ砂漠の北部にあたります。その一部にある丘陵地帯には、白亜紀(はくあき)中頃(約9500万年前)の湖や河川などの陸上環境で堆積した地層が露出しています(図2)。
図1 モロッコ南東部の恐竜化石産地(KemKem)の位置
図2 恐竜化石産地(KemKem)に露出する白亜紀の地層
地層は、赤褐色の砂岩からなり、河川の流れで砂粒が運ばれた際にできる堆たい堆積構造(たいせきこうぞう)がよく観察できます。この地層全体から、化石が産出する訳ではなく、限られた層から化石が産出します。地元の人たちは、化石を土産物として販売するために化石の発掘を行っています。そのため、彼らは化石が産出するポイントを良く知っており、化石が産出するポイントには、彼らが化石発掘のために掘った穴が多く見られます(図3)。発掘される化石は、陸上や淡水に生息していた生物(恐竜、翼竜(よくりゅう)、ワニ、カメ、硬鱗魚(こうりんぎょ)、サメやエイ類など)の歯や骨、鱗(うろこ)などです(図4)。近年、日本にもモロッコの土産物として恐竜の歯(スピノサウルスやカルカロドントサウルスなど)が持ち込まれていますが、それらはこの地域から産出したものです。
図3 化石発掘のために掘られた穴
図4 地層から発見された化石
2016年7月、徳島県から2つ目となる恐竜化石が発見されました。この恐竜化石が産出した地層からも、カメ(スッポン類)や硬鱗魚の鱗、淡水生のサメやエイ類の歯の化石が発見されており、モロッコの恐竜化石産地から産出する化石の種類とよく似ています。どちらも湖や河川の周辺に生息していた生物が化石として発見されるためです。そう考えると、徳島県の恐竜化石産地からも、もっと多くの恐竜化石が発見されることが期待できます。