博物館ニューストップページ博物館ニュース115(2019年6月25日発行)県民の力で文化の森の植物を調べる~『中級クラス植物観察会』の活動から~(115号CultureClub)

県民の力で文化の森の植物を調べる ~『中級クラス植物観察会』の活動から~【CultureClub】

植物担当 茨木靖

博物館普及行事『中級クラス植物観察会』は、植物の名前の調べ方や標本の作製・整理の方法など、“中級程度の植物学的知識や技術”を身につけていただくための講座として開講されてきました。平成27年度から、皆で文化の森周辺の調査を行い、そこに生える植物の種類を網羅(もうら)的に調べる活動です。いわゆる“観察会”では、野外で植物を見て、講師が名前を教えてくれ、それを聞くと言うスタイルが普通なのではないかと思いますが、この講座では参加者が“自分自身”で名前を調べてきました。

図1 植物を採る。

図1 植物を採る。

自分の力で植物を調べ、社会に活かす

植物について詳しく勉強するためには、まず、きちんとした標本を作らなければなりません。野外で植物をしっかりと観察し、採集をすることは植物を知る第一歩です(図1)。続いて採集した植物は標本にします。植物の場合、それは押し花です。はじめは、戸惑っていた参加者の方々も、実習を通してだんだんと綺麗(きれい)で学術的な標本が作れるようになっていきました(図2)。標本にした植物は、図鑑などを使って名前を調べます。しかし、実はそれはとても難しい作業なのです。専門用語の理解や検索(けんさく)表と言う名前調べのための道具の使い方を身につけなければ先へは進めません。しかし、それだけに自分自身の力で植物の名前を調べられるようになることは、とても素晴らしいことだと言えます。また、観察会の最後には、お互いの調べた植物について、どこが見分けるポイントなのか紹介しあう時間をもうけてきました(図3)。自分が悩みながら学んだ植物の見分け方を、互いに教え合うことで、ずっと早く植物の見分け方を身につけることができます。

図2 標本を作って名前を調べる。

図2 標本を作って名前を調べる。

 

図3 自分の調べた植物について教えあう。

図3 自分の調べた植物について教えあう。

このようにして身につけた知識や経験は、『はじめての植物かんさつ』や『ゼロから始める植物学』など、当館の初心者向け植物学講座での解説や標本紹介などで活かされています(図4)。自分が身をもって植物の名前の調べ方を体験することで、初心者にもわかりやすい解説ができるようです。こうしてこれまで学んできた知識や経験は、多くの人の学習の助けとなっています。さらに、これまでの調査成果を展示として表現したり(図5)、採集した標本を国内外の標本庫と交換する活動を通して、地域の文化的活性化や博物館資料の充実などにも大きく貢献(こうけん)しています。

図4 『初めての植物かんさつ』で解説を行う。

図4 『初めての植物かんさつ』で解説を行う。

図5 調べた内容について展示を行う。

図5 調べた内容について展示を行う。

新しい植物も

『中級クラス植物観察会』で採集された標本の中には、これまで文化の森では知られていなかったものもたくさんありました。2015年5月、公園内で行われた行事で、小部(こべ)ゆり乃(の)さんが“黄色い花の草”を発見しました(図6)。その後、この標本は参加者の白井朋子(しらいともこ)さんによって詳細に検討され、ヨーロッパ原産の多年草で、北海道(ほっかいどう)、千葉(ちば)千県、東京(とうきょう)都および岡山(おかやま)県などからも記録があるハイキジムシロであることがわかりました。徳島(とくしま)県からは、これまでに記録されたことがないとわかり、当館の研究報告に白井さん達が執筆(しっぴつ)した論文(ろんぶん)が掲載(けいさい)されました。また、2016年9月には、見慣(みな)れない小さな草を見つけました。小さい植物なので、念のためサンプルを採り小川英則(おがわひでのり)さんにも詳しく調べてもらいました。その結果、この草は、アワゴケであり、これまで文化の森では見つかったことがない植物とわかりました。そこで、当館の博物館ニュース(No.104「身の回りの植物を調べよう!」)にレポートとして掲載しました。自分自身が見つけた植物について、自分の力で文章にして公表する活動は、その方自身の力にもなり、また地域文化の向上のための貢献となります。

図6 ハイキジムシロ(小部ゆり乃氏撮影)。

図6 ハイキジムシロ(小部ゆり乃氏撮影)。

このように『中級クラス植物観察会』は、長年にわたり、文化の森の植物を網羅的に調べることを目的に活動を行ってきました。それも、前年度までには、目的をほぼ達成できたかと思います。
そこで、今年度からは、タイトルも一新『花巡り!植物かんさつハイキング』シリーズとして、県内各地で観察会を行うことにしました。文化の森の中では見ることのできない、もっとたくさんの素晴らしい植物に出会えることと期待しています。また、初級向けの講座、『はじめての植物かんさつ』や『ゼロから始める植物学』シリーズも引き続き開催されます。

これらの行事を通して、将来の徳島県の植物学を担(にな)う人材が少しでも育って欲しいと期待しています。行事は、いずれも申し込み不要です。少しでも植物に関心のある方は、是非ご参加ください。

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