Q.クスノキの葉に寄生する外来昆虫がいるようですが、何ですか?【レファレンスQandA】
動物担当 山田量崇
クスベニヒラタカスミカメMansoniellacinnamomi のことです(図1)。つい最近、原産地の中国(ちゅうごく)から日本(にっぽん)に侵入しました。カメムシ目(もく)カスミカメムシ科のなかまで、体長6~7ミリメートルの長細くて扁平(へんぺい)な体をしています。体には黄色や橙赤褐色(だいだいせきかっしょく)の派手な模様があるため、小さくてもよく目立ちます。通常、クスノキCinnamomum camphora の葉の裏に複数個体が集まって生活し、そこで吸汁(きゅうじゅう)行動が行われます。吸汁された葉には褐色の斑紋(はんもん)が無数にできるため、カメムシの派手な体の色が目立ちにくくなります(図2)。繁殖力はきわめて高く、出現のピークとなる10月頃には1本のクスノキから数百から数千個体も発生することがあるようです。
図1 クスベニヒラタカスミカメの成虫(提供:伊丹市昆虫館 長島聖大)
図2 葉に生じた褐色の吸汁痕
国内では2015年10月に大坂(おおさか)府岸和田(きしわだ)市で初めて見つかり、ほぼ同時に兵庫(ひょうご)県伊丹(いたみ)市からも発見されました。発見場所や発生状況から考えると、原産地である中国から関西(かんさい)地方へ侵入したとみられています。2016年末までに近畿(きんき)地方のほぼ全域に拡がり、2018年には岡山(おかやま)県、神奈川(かながわ)県、愛媛(えひめ)県、愛知(あいち)県でも確認され、本種の分布域が中国(ちゅうごく)・四国(しこく)地方から関東(かんとう)地方まで広範囲に及んでいることがわかりました。いずれの場所でも、市街地や住宅地に植栽されたクスノキが主な発生源となっています。
2017年12月の時点で淡路島(あわじしま)南部(兵庫県南(みなみ)あわじ市)まで確認(かくにん)されていましたが、徳島(とくしま)県からは見つかっていませんでした。ところが2018年8月に愛媛県松山(まつやま)市から見つかったため、急遽(きゅうきょ)調査を行ったところ、徳島県でも本種の発生が認められました。加害されたクスノキの状況から、徳島県内へは淡路島から侵入したと考えられます。本種の影響でクスノキが枯死(こし)することはないようですが、大量発生した場合、葉の褐変(かっぺん)や落葉などで美観が損なわれることも考えられます。クスノキは社寺などで記念樹や御神木として保存されている場合もあるため、今後の分布拡大と被害の影響が心配されます。