博物館ニューストップページ博物館ニュース115(2019年6月25日発行)延喜式と三木家文書―古代・中世の大嘗祭関係資料―(115号館蔵品紹介)

延喜式と三木家文書―古代・中世の大嘗祭関係資料―【館蔵品紹介】

歴史担当 長谷川賢二

去る5月1日、新元号「令和」がスタートしました。近現代では初めての生前退位による天皇代替わりのためです。そして、11月には、新天皇の即位にかかわる儀式の一つとして大嘗祭(だいじょうさい)が行われます。大嘗祭とは、天皇が即位後に初めて、収穫されたばかりの穀物を神に供え、自らもそれを食べる祭です。おおむね15~17世紀を除いて、古代以来行われてきたもので、阿波にもかかわりがあります。

ここでは、当館に収蔵している、古代・中世の大嘗祭(大嘗会(え) )に関する資料のうち2件を紹介します。これらをはじめとする関係資料を部門展示「大嘗祭と阿波」(10月1日~12月1日)で公開する予定です。

延喜式(図1)

原著は延長(えんちょう)5年(927)に完成した法令書ですが、本資料は慶安(けいあん)元年(1648)に印刷・出版されたものです。大嘗祭についての詳しい規定が見られ、これによると、阿波国が負担する由加物(ゆかもの)(神への供え物)を麻殖(おえ)郡の忌部(いんべ)と那賀(なか)郡の潜女(かずきめ) が調達することになっていました。このときに阿波忌部が用意する麁布(あらぬの(あらたえ)) が神祇官(じんぎかん)に収納され、大嘗祭の際に麁服(あらたえ)として用いられました。
なお、阿波忌部とは、中央の祭祀氏族であった忌部(斎部(いんべ) )氏が地方に置いた集団に由来し、律令制下では神祇官に統括されたとみられています。

図1 延喜式 巻七 見開き右側に、阿波国が献納する由加物の内容が記載されており、忌部・潜女が調達したことが分かります。

図1 延喜式 巻七 見開き右側に、阿波国が献納する由加物の内容が記載されており、忌部・潜女が調達したことが分かります。

三木家文書(図2)

美馬(みま)市木屋平(こやだいら)の三木家に伝来した古文書で、当館で保管しています。中世文書全47点のうち、近代の写(うつし)を除く45点が徳島県指定有形文化財となっています。
大嘗祭における麁服(文書の表現では「荒妙御衣(あらたえのみそ)」)に関する文書が含まれていることが特徴的です。それらの時期は12世紀末から14世紀前半で、太政官符(だじょうかんぷ)や官宣旨(かんせんじ)といった朝廷の命令文書により、阿波国(国司)を介して忌部氏を称する人々に麁服が求められたことが分かります。中世においても、大嘗祭における古代阿波忌部の役割が継承されており、たいへん興味深いものです。

図2 官宣旨案(三木家文書のうち)上段は永仁6年(1298)、伏見天皇の大嘗会に際してのもの。下段は文保2年(1318)、後醍醐天皇の大嘗会に際してのもの。いずれも、「荒妙御衣」を忌部氏人に織らせて、神祇官の使者に渡すよう阿波国(国司)に命じたことが分かる古文書。国衙がからもたらされたと思われる写です。

図2 官宣旨案(三木家文書のうち)上段は永仁6年(1298)、伏見天皇の大嘗会に際してのもの。下段は文保2年(1318)、後醍醐天皇の大嘗会に際してのもの。いずれも、「荒妙御衣」を忌部氏人に織らせて、神祇官の使者に渡すよう阿波国(国司)に命じたことが分かる古文書。国衙がからもたらされたと思われる写です。

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