博物館ニューストップページ博物館ニュース116(2019年9月25日発行)ヌマコダキガイ類の化石(116号館蔵品紹介)

ヌマコダキガイ類の化石【館蔵品紹介】

地学担当 中尾賢一

鳴門(なると)海峡周辺の海底からは、ナウマンゾウなどの哺乳(ほにゅう)動物化石が漁網(ぎょもう)にかかって得られることが以前からよく知られていす。近年になって、トウキョウホタテなど、多数の第四紀更新世(だいよんきこうしんせい)貝類化石も同様に採集されています。今回はこれらのうち、ヌマコダキガイ類について紹介します。

ヌマコダキガイ類には分類学的な問題があり、現在の時点では種名を特定することはできません。鳴門海峡海底産ヌマコダキガイ類化石(以下、鳴門産化石)は有明(ありあけ)海に分布する種(中国(ちゅうごく)大陸沿岸起源の移入種(いにゅうしゅ):かつてヒラタヌマコダキガイとよばれていた)に形態が一致するので、おそらく同種だろうと考えられます。

鳴門産化石は、殻(から)が横長で薄く、膨(ふく)らみも弱いのが特徴です。厚さ3~4cmの薄いコンクリーション(堆積物(たいせきぶつ)のかたまり)に極めて多数の殻が層状に密集した状態で産出します。殻の大きさは、コンクリーションごとにほぼ一定しています。多くは殻長(かくちょう)1cm未満ですが,約2.5cmに達する場合もあります(図1)。

図1 ヌマコダキガイ類の大型個体を多く含む鳴門海峡海底産コンクリーション

図1 ヌマコダキガイ類の大型個体を多く含む鳴門海峡海底産コンクリーション

 

有明海の種は、泥質(でいしつ)な干潟(ひがた)に、1平方メートルあたり数千個体に及ぶすさまじい高密度で生息することが知られています(図2)。極めて多数の殻が泥岩(でいがん)に層状に密集する鳴門産化石の産状とよく一致しています。

図2 群生するヌマコダキガイ類(矢印)(2004年5月、佐賀県小城市ムツゴロウ公園)

図2 群生するヌマコダキガイ類(矢印)(2004年5月、佐賀県小城市ムツゴロウ公園)

 

14C年代測定によって、鳴門産化石は約4.0~4.3万年前のものであることがわかりました。これは、同じように産出するトウキョウホタテ(4.4万年より古い)より明らかに新しく、トウキョウホタテ消滅後の鳴門海峡に一時的にヌマコダキガイ類が住みついたことを示しています。

いっぽう、瀬戸内海(せとないかい)の他の海域では、大阪(おおさか)湾や播磨灘鹿瀬(はりまなだしかのせ)、来島(くるしま)海峡から、鳴門産化石によく似た小型化石種コガタヌマコダキガイの化石が報告されています。鳴門産化石との関係が気になるところです。

図3 たくさん散らばったヌマコダキガイ類の貝殻(撮影時期と場所は図2と同じ)

図3 たくさん散らばったヌマコダキガイ類の貝殻(撮影時期と場所は図2と同じ)

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