博物館ニューストップページ博物館ニュース038(2000年3月25日発行)テンガイハタ-不思議な魚、紀伊水道に出現(038号館蔵品紹介)

テンガイハタ-不思議な魚、紀伊水道に出現【館蔵品紹介】

動物担当 佐藤陽一

 

図1の魚は、徳島市漁業協同組合の数藤誠吾(すどうせいご)さんが、1999年9月の早朝に阿南市伊島(あなんしいしま)沖の紀伊(きい)水道入リ口でタチ網(タチウオなどを採るための底引き網の一種)で漁獲(ぎょかく)したものです。初めて見る異様な形の魚だというので、博物館へ連絡し、寄贈(きぞう)してくださいました。

 

図 1 テンガイハタ Trachipterustrachypterus (体長約 204cm)

図 1 テンガイハタ Trachipterustrachypterus (体長約 204cm)


この魚、は、からだ全体が銀色で、細長く、臀鰭(しりびれ)がないところはちょっとタチウオに似ていますが、フリソデウオ科のテンガイハタという珍しい深海魚です。ふだんは水深数100m(こすんでいると考えられ、潮の流れの関係か、まれに表層まで上がってきて漁網(ぎょもう)に掛かったり、海岸に打ち上げられることがあります。地中海や南アフリ力、ニュージランド、日本では千葉県以南から知られています。
写真のテンガイハタの各部の特徴(とくちょう)を見てみましょう。まず、体長ですが、約204cmあります。ただし、尾部の先端がちぎれているので実際にはもう数cm長いでしょう。腹鰭(はらびれ)はありませんが、これは成長にともなう退縮または脱落と考えられます。

体の表面に鱗(うろこ)はありません。ただし、細かなイボ状の突起がたくさんあリ(図2)、とくに背鰭(せびれ)の付け根付近と腹中線(ふくちゅうせん)上では、大きくはっきりしています。からだの所々で皮膚(ひふ)が楕円形(だえんけい)にはがれています。これは漁網によるスレでないことは明らかでも、もしかすると大型のイ力の吸盤(きゅうばん)が吸い付いた跡(あと)かもしれません。

図2テンガイハタの皮膚

図2テンガイハタの皮膚

図3テンガイハタの背鰭

図3テンガイハタの背びれ

 

胸鰭(むなびれ)は身体のサイズの割には小さく、ほとんど水平に付いています。タチウオの胸鰭もそうですが、おそらく頭を上にして立った状態がふだんの姿勢なのでしょう。おもしろいのは背鰭で、付け根に沿った鰭膜(きまく)に必ず小窓のような穴が空いています(図3)。長い背鰭を波打つように動かすことにより、漂うようにゆっくりと泳く恥と考えられますが、そのとき鰭膜の小穴が水の抵抗を減らすのに役立っているのかもしれません。

 

図 4 テンガイ ハタの頭部(口を閉 じた状態)

図 4 テンガイ ハタの頭部(口を閉 じた状態)

 図 5 テンガイハタの頭部(口を聞いた状態)

図 5 テンガイハタの頭部(口を聞いた状態)


口はまるで掃除機(そうじき)のように長くのばすことができます(図5)。口を閉じた状態(図4)の頭長は27cmなのに対し、開くと39cmにもなります。タチウオのような大きな歯はありませんが、近づいてきた工ビ類や小魚などを吸い込むようにして食べるのでしょう。
フリソデウオ科の魚はめったに採れないことから、研究が進んでいません。もし採れましたらご一報をお願いします。

カテゴリー

ページトップに戻る