ナルトサワギクとヒロハフウリンホオズキ【館蔵品紹介】
植物担当 小川誠
ナルトサワギクは、1976年日本で初めて徳島県鳴門市の埋立地(うめたてち)に帰化してるのが発見されたキク科の植物です。サワギクのなかまだったので、発見地にちなんでその名が付けられました。外国からやってきた帰化植物(外来種)でしたが、いったいどこの国から来たのか、何ものなのかわからないまま20年間もたっていました。
1996年に私が当館の標本庫(収蔵庫)で標本を調べていた時に、ナルトサワギクそっくりの標本を見つけました。この標本はアルゼンチン産で、1993年開催の企画展「南アメリカの自然」のためにアルゼンチンから入手したものでした。この標本ラベルには,Senecio madagascariensis Poir.と学名が書かれていました。これを契機(けいき)に、さまざまな人の協力を経て、ナルトサワギクがマダガスカル原産の植物であると判明しました。学名がわかるとインターネットや文献などで次々に情報が集まりだし、この植物の姿がわかりはじめました。オーストラリアやハワイなどでは、家畜が食べると成長を阻害するために、大がかりな駆除(くじょ)が行われていることも明らかになりました。
アルゼンチン産ナルトサワギク
環境省は外来種対策のために法律を制定し、有害なものをこれ以上広がらないようにしていますが、その対象種としてナルトサワギクが候補にあがっています。これもナルトサワギクの正体が判明し、その影響がわかってきたからです。
私たちがよく参考にするものに平凡社の「日本の野生植物」という図鑑があります。その草本編(そうほんへん)の3巻の写真の80ページにヤマホオズキの写真が掲載されています。徳島市不動町(ふどうちょう)で1974年7月19日に阿部氏によって撮影されたことがキャプションに書かれています。この撮影者は「徳島県植物誌」を作成された阿部近一氏です。ヤマホオズキは徳島県ではめったにみられない植物で、絶滅危惧種(きぐしゅ)になっています。阿部氏もこの植物がヤマホオズキではないと気が付いていて、後に出版した「徳島県植物誌」では同じものをセンナリホオズキの一種としています。当館には阿部氏のコレクションが寄贈されています。センナリホオズキの一種がどのようなものか調べてみたところ、不動町で同じ日に採られた花の付いた標本があり、同じ場所で違う季節に採られた果実のついた標本もありました。それらを検討してみるとセンナリホオズキに似ているが、全体に毛が少ないヒロハフウリンホオズキであることがわかりました。さらに他の産地の標本も検討してみると徳島県ではセンナリホオズキよりヒロハフウリンホオズキの方が多いことまでわかりました。
ヒロハフウリンホオズキ
ある植物が何という名であるかを調べる(同定)のは時として大変難しい場合があります。特に情報の少ない帰化植物などは同定が間違っていたということは珍しいことではありません。しかし、標本がきちんと残っていればそれが本当は何であったのか、後々になってわかります。きちんと標本を作製し、それを公的な標本庫に入れておけば、新しい知見をもとに再検討できるという良い例です。