蒔絵の名工・装飾の美【表紙】

美術工芸担当 大橋俊雄

図1は、一般に「こと」と呼ばれ、「琴」の字が当てられますが、正確には「箏(そう)」といいます。色々な材料を用いて美しく装飾された箏で、「九江(きゅうこう)」という名前が付けられています。

図1 箏 (そう) (銘九江 徳島県立博物館蔵)

本体は、琴師(ことし)の石村因幡(いしむらいなば)が元禄(げんろく)5年(1692)に作りました。側面の帯状(おびじょう)のスペースには、飯塚桃葉(いいづかとうよう)(号観松齋知足(かんしょうさいちそく)?―1790)が瀟湘八景(しょうしょうはっけい)を蒔絵(まきえ) しています。銘(めい)によると、この蒔絵は天明(てんめい)2年(1782)9月に完成しています。桃葉は江戸に住んだ蒔絵師で、阿波の大名蜂須賀(はちすか)家に抱(かか)えられました。

瀟湘八景は、中国の名勝(めいしょう)にちなむ8つの風景からなります。図2は、八景のうち「平沙落雁(へいさらくがん)」と呼ばれる景の後半部です。写(うつ)っていない前半部は、空から雁(かり)の列が降りてくる岸辺の情景(じょうけい)です。後半部は、木立(こだ)ちをはさんで刈田(かりた)が遠くまで広がっています。

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