博物館ニューストップページ博物館ニュース085(2011年12月1日発行)外国からやってきた小さな侵入者(085号CultureClub)

外国からやってきた小さな侵入者(しんにゅうしゃ)-分布を拡大させる3種のグンバイムシ-【CultureClub】

動物担当 山田量祟

グンバイムシという虫をご存じですか?体長3~4ミリの小さなカメムシの仲間で、背面に網目状(あみめじょう)の脈(みゃく)をもつちょっと風変わりな姿をしている昆虫(こんちゅう)です。名前は、幅(はば)が広くて扁平(へんぺい)な体形が、相撲で行司が持っている軍配団扇(ぐんばいうちわ)に似ていることに由来します。この仲間は植物を餌(えさ)とし、ストロー状の口を葉に突(つ)き刺(さ)して汁(しる)を吸うため、一部の種では、農作物や園芸植物に被害(ひがい)を及ぼす農業害虫として知られています。小さくてなじみのない虫ですが、私たちの身近には、外国からやってきて日本各地へ分布を拡げているグンバイムシが暮らしています。今回は、そんな小さな侵入者について紹介(しょうかい)したいと思います。

どうやって外国からやってきたのか?

グンバイムシは、成虫、幼虫ともに一生を植物上で過ごします。また、メスは産卵の際に植物組織へ卵を埋(う)め込(こ)みます。そのため、植物とともに他の場所へ長距離移動することが可能です。つまり、苗木(なえぎ)や植木の輸送など、人の手によって簡単に持ち運ばれてしまうわけです。日本ではこの15年の間に、海をわたって侵入したであろうグンバイムシが3種発見されました。

ヘクソカズラグンバイ Dulinius conchatus Distant, 1903(図1)

ヘクソカズラグンバイ

図1ヘクソカズラグンバイ

東南アジア原産で、1996 年に伊丹(いたみ)空港周辺で発見されました。空港近辺で見つかったため、航空貨物に付着してやってきたと考えられています。その後、関東や九州、最近では四国にまで分布が拡がりました。ヘクソカズラという雑草に寄生するため、なかなか注目されませんが、多くの場合、公園や駐車場(ちゅうしゃじょう)じょうといった身近な場所で見つかっています。現在、加藤敦史(かとうあつし)氏(東大阪市)との共同で、四国におけるヘクソカズラグンバイの分布拡大状況を調べています。四国では、2006年に松山市から報告されたのを皮切りに、2008年には徳島市と淡路島(あわじしま)まの洲本市(すもとし) からも確認されました(図2)。2009年には、愛媛県四国中央市(しこくちゅうおうし)と香川県観音寺市(かんおんじし)(香川県の初記録)から発見され、2010年には、愛媛県北部、香川県瀬戸内海沿岸部と分布がさらに拡がりました。徳島県では2010年の時点で、西は穴吹町(あなぶきちょう)までの吉野川流域、南は阿南市(あなんし)までの沿岸部で確認されています(図2)。果たして、今後どこまで拡がっていくのでしょうか?

 

図2 四国におけるヘクソカズラグンバイの分布状況 加藤・山田(2010)より

図2 四国におけるヘクソカズラグンバイの分布状況 加藤・山田(2010)より

アワダチソウグンバイ Corythucha marmorata (Uhler, 1878)(図3)

アワダチソウグンバイ

図3アワダチソウグンバイ

北米原産の本種は、2000年に兵庫県西宮市(にしのみやし)で初めて発見されました。当時は大阪湾(おおさかわん)沿岸部に分布していたため、船便で運ばれてきたと推測されています。セイタカアワダチソウに寄生するほか、同じく帰化(きか)植物のオオオナモミやブタクサなどのキク科植物を好みます。発見されてからまたたく間に生息範囲(はんい)が拡がっていき、今では本州、四国、九州のいたるところで見られるようになってしまいました。徳島県では2005 年に県病害虫防除所(けんびょうがいちゅうぼうじょしょ)によって発生が報告され、その後は県内各地で確認されています。時に栽培品種(さいばいひんしゅ)のキクを加害することがあるので、注意が必要です。

プラタナスグンバイ Corythucha ciliata (Say, 1832)(図4)

プラタナスグンバイ

図4プラタナスグンバイ

北米原産で、2001年に名古屋や横浜、北九州などの港近辺で発見されました。船の積み荷とともにやってきたと考えられています。街路樹(がいろじゅ)として植えられているプラタナスに寄生するため、被害がひどい場合、葉が白化(はっか) して景観が損なわれるおそれがあります。幸運にも、徳島県内にはプラタナスが植栽(しょくさい)されているところがあまりなく、大きな影響はないと思われます。

おわりに

これらの外来のグンバイムシは、驚異(きょうい)的な速さで分布を拡げ、すっかり日本に定着してしまいました。短期間のうちに生息範囲を拡げていることから、車や鉄道などに付着して拡がっていったように思われます。また、ベランダの洗濯物(せんたくもの)に付いていることがたびたびあります。おそらく風に乗ってどこからともなく飛んできたのでしょう。このことから、かれら自身の分散能力の高さも推測できます。
ここに取り上げたグンバイムシは、いずれも私たちの身近にいる昆虫です。しかし、このような数ミリ足らずの小さな虫が海を渡ってやってきたとしても、私たちにとって何らかの影響がなければその存在すら知る由もありません。身近にいる小さな昆虫が、実は外国からやってきた侵入者だった…といった話は少なくなく、日頃(ひごろ)から身の周りの虫たちに関心を持っていただければと思います。
(動物担当)

参考文献:加藤敦史・山田量祟(2010)「ヘクソカズラグンバイは淡路島経由で四国へ侵入したのか?」(日本昆虫学会近畿支部2010年度大会ポスター発表)

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