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お知らせ:関連の展示をしました。

トピックコーナー 「身のまわりの植物を楽しもう」

■会期:2017年5月30日(火)~2017年7月30日(日)
※休館日 月曜日(ただし7月17日は開館)、7月18日
■会場:常設展示室ラプラタホール内
※常設展の入館料が必要です。

 環境や生物多様性への関心が高まっていますが、身のまわりの植物を活 用し、遊んだり、味わったりしながら、植物の面白さや役割を体験することは、身 近な環境について理解を深める上でとても大切です。
 今回の展示では、誰でも身のまわりの植物を紙にできる方法を紹介します。また、タケノコの皮やナスの皮など、捨てられてしまう部分を使って布を染める草木染めも紹介します。意外なもので紙をすいたり、布を染めることができます。さらに、加熱しないで紙作りや草木染めをする方法を紹介しますので、子どもでも安心してでき、夏休みの自由研究のヒントにもなる展示です。

※チラシはこちら

ここで目指す「草木染め」とは

 植物から染料を取り出し、糸や布を染めることです。人工の染料に比べて、色あせや色落ちしたりしやすいのですが、簡単な道具で自分でもできるということで人気です。工夫次第でさまざまな色を出すことができます。

 草木染めは古い時代から行われてきており、伝統的手法が確立しているところもありますが、ここで目指すのは伝統を守ることでななく、身の回りの自然を楽しむ一つの手法としての「草木染め」で植物や自然の面白さを体験することです。したがって、一般的な草木染めの手法とはかなり異なっています。今まで草木染めをきわめて来られた方々をリスペクトしながら、植物や自然の面白さをを追求する「草木染め」とはどのようなあり方なのか提示できればと考えております。
 2017年2月に始めたばかりなので、経験が浅い故に間違ったことなど多々ありますでしょうが、ご指摘いただけると助かります。

一般的な「草木染め」の方法

 一般的なやり方は次のようになります。詳しくはいろいろなホームページに書かれていますので検索してみてください。

①染料となる草や木の花、実、皮、根などを集める
②布や糸の下準備をする(綿は豆乳で処理、糸や絹は精錬する)
③植物を鍋でぐつぐつと煮る
④染料の液ができたら、漉して鍋に移し、布や糸を入れてぐつぐつと煮る
⑤水洗いし、媒染剤に浸ける
⑥水洗いし、④に戻り、④から⑤を繰り返す。最後に④で煮るのをやめる
⑦水洗いして乾燥させる
 ここで注目していただきたいのが、染料を取る時と、布を染める時の2回鍋で煮ていることです。染色も化学反応の一つですから、温度を上げてやる方が処理も速く進むし、水で溶け出さなかった染料も採ることができます。しかし、そのぶん火傷などの心配がでてきます。植物や自然の面白さをを追求する「草木染め」は対象が親子というった具合に、小さい子供さんもおられますので、IHヒータを使うなどなんとかならないかと試行していました。実際、最初はこの方法を試行していましたので、結構火傷をしたり、匂いが充満したりしていました。そこで、いろいろなページを探していた時に、加熱しなくても草木染めができることを知り、次のような方法を試してみましたところうまくいきました。

加熱しない「草木染め」の方法

 今までも、草木染めについては、先達さん方がいろいろな手法を試してくれています。そのうち加熱しない「草木染め」にもいくつかのやり方がありますが、実際に方法を試している時に気をつけていたのが次のようなことです。

①火傷の心配が無い
②器具はできるだけ簡単なもの
③薬品は入手が簡単で安全なもの
④植物は特殊なものではなく、簡単に入手できるもの
⑤特に、捨てるようなものや駆除がやっかいな外来種を使えると良い
 幾度かの試行を重ねて、暫定的ではありますが、次のようなやり方にたどり着きました。

加熱しない方法(常温クエン酸抽出・染色法)とは

 クエン酸溶液中で室温で染料の抽出を行います。染色も室温です。温度が低く反応が進みにくいので、たっぷりと時間をかけてやると良いでしょう。
 クエン酸は掃除の薬剤として、スーパーマーケットや100円ショップで売っています。クエン酸をもっと強い酸、たとえば塩酸に変えると、確かに濃い色素が取れるのですが、危険ですし、布が傷みますので、結果としてよくないです。ただし、クエン酸も塩酸ほどではありませんが、強い酸の一種ですので、作業にあたってはゴム手袋やゴーグルなどで皮膚や目を保護する必要があります。

※まだ試行段階なのでミョウバン(焼きミョウバン)や食塩の量は適当です。逆にいれなくても良いのかもしれません。
※薬剤が目に入ったり手についたりしないように、ゴム手袋とゴーグルをしてください。
※酸性とアルカリ性の液を混ぜると有毒ガスがでる場合があります。換気のよい場所で作業し、液を変える際は十分に洗ってください。また、密閉容器は使用しないでください。
 使う材料は、花びらや葉、実などです。たとえば、すてられてしまうようなナスの皮やタケノコの皮でも染まります。葉の場合は、染まっていないように見えますが、最後に水洗後、アルカリ溶液に浸けてやると黄色が出ます。

草木染め:菜の花、タケノコ、藤
左から、フジの花、タケノコの皮、菜の花、無染色-比較用(すべて木綿の布、豆乳処理無し)

草木染め:ナスの皮
左から、ナスの皮(最後に灰汁に浸ける)、ナスの皮(最後に灰汁には浸けない)。すべて木綿の布、豆乳処理無し。
草木染め:桑の実
左から、クワの実(木綿、最後に灰汁に浸ける)、クワの実(木綿、最後に灰汁に浸けない)、クワの実(羊毛)、無染色-比較用(木綿)。すべて豆乳処理無し。普通は豆乳処理しないと染まらない木綿がよく染まる。逆に羊毛がが染まりにくい。

常温クエン酸抽出・染色法の実際

 常温クエン酸抽出・染色法(常温染め)は実際には次のようになります。作業する場合は、上の注意書きもよく読んでください。

①花を集める(今回の例では青のロベリア)
②口の広いガラス瓶に5~10%のクエン酸溶液を作って入れる。
③その中に花を入れて漬け込む(2時間以上)
④ザルなどで染色液を漉して、ガラス瓶に戻す。
草木染め:常温クエン酸抽出・染色法
左から、ロベリアの花を集める。5~10%のクエン酸溶液を用意する。花を浸ける。

⑤木綿の布をぬるま湯に15分ほど浸けて、絞る。
⑥染色液に布を浸ける。(2時間以上)
⑦ミョウバンと食塩を入れてよくかきまぜる。
⑧水でよく染色液を洗い流し、しぼって干す。
草木染め:常温クエン酸抽出・染色法
左から、布をぬるま湯に浸ける。染色液に布を入れる。ミョウバンを入れる。

 ロベリアの花の色はアントシアンなので、青い花でも酸性溶液中では赤色になります。園芸店で売られている草木灰を水につけ一晩以上おいた上澄み液(アルカリ性の灰汁)に、最後の水洗後につけ込むと青色になります。水で洗って、よく絞り乾燥させます。ただし、空気中の二酸化炭素を吸収し、乾燥している間に、青は薄れてしまいます。


常温クエン酸抽出・染色法の特徴

 常温クエン酸抽出・染色法は一般的な草木染めの方法に比べて次のような特徴があります。

・熱を加えないので鮮やかな色が出る。
・火傷の心配が無いので子どもでも比較的安心してできる。
・綿がよく染まる(普通は綿は染まりにくい)。
・加熱しないのでほとんど臭いが出ない。
・酸性/アルカリ性で色が変わる(湿った環境は苦手?)。
 酸性/アルカリ性で色が変わるのはアントシアンの特徴ですが、今のところ、実用的な染めものというより、草木染めの入門として位置づけたらよいと思われます。キハダの皮で抽出すると普通の草木染めとどうように鮮やかな黄色が出て、酸性/アルカリ性でもほとんど色は変わりませんでしたので、材料を選ぶのも課題のひとつです。
 また、加熱は一切していないので、染料の付着が十分でなく、耐久性に問題があるかもしれませんが、電子レンジなどの利用で改善する可能性があります。

常温クエン酸抽出・染色法の原理

 このやり方の特徴は、まずクエン酸を使うということです。右の写真はペチュニアの花をクエン酸(左)と水(右)に一晩浸けておいたものです。いわゆる色水をつくって見ました。ただの水ではほとんど色が出ていません。花びらを押しつぶしたら色水になります。しかし、クエン酸では赤い色が出ていることがわかります。
 色素を持っているのは花だけではありません。たとえばタケノコの皮は赤みを帯びていますが、皮を細かく切って、クエン酸につけ込むと赤い染色液ができます。これで布を染めてやるときれいなピンクに染まります。


タケノコの皮をクエン酸に浸けたもの(左)とそれで染めたエコバッグ(右)

 この常温クエン酸抽出・染色法はおそらく私たちになじみの深い食品と同じ原理だと思われます。さて、何か当ててみてください。


草木染めの応用

草木染めはさまざまな応用ができます。工夫しながらいろいろとチャレンジしてみてください。

紙の繊維を染める

 紙の繊維はセルロースで木綿と同じなので、常温クエン酸抽出・染色法でよく染まります。右の写真は、パイナップルやクワ、クズなどから採った繊維をサザンカの花から抽出した染料で染めました。100円ショップで売っているクッキー型を利用して、染めた繊維と染めていない繊維を配置しながら紙を漉いたものです。


地元の特産物で染める

 皆さんの地元にはさまざまな特産物があるかと思います。徳島県では、サツマイモ、ブドウ、ヤマモモなどがあります。まだ、試していませんがおそらくこれらの実や皮から染料が取れるでしょう。特産物ですので材料を用意するのも簡単です。
 徳島県阿南市の伊島にはその隣の島である前島にヒゼンマユミが生育しています。県内ではここだけの植物ですし、隔離分布していますので、貴重な植物です。20数年前に伊島の調査に訪れた際に、地元の方の家に植えられていたヒゼンマユミを覗いていたら、その家の方が出てこられて事情を話したところ、その苗をくださりました。自宅で栽培していましたが、とても大きくなったので冬に剪定をしてやったのですが、貴重な植物ですので、実や葉、枝などそのまま捨ててしまうのはもったいなく、草木染めにしてみました。当時は常温染めはまだやっていなかったのですが、葉を鍋で煮て重曹を加えるととても鮮やかな黄色が出ることがわかりました。常温染めでも最後にアルカリで処理するとよく染まります。長崎県の佐世保市まで自生のヒゼンマユミを見に行ったことがありますが、とても大きな木になります。絶滅危惧種ですので、自生しているものを材料にするわけにはいきませんが、いろいろな場所で植えられていますのでそれを活用することは可能です。


糸を染めて布を編んだり織ったりする

 いろいろな材料で糸を染めて、それで布を織ったり編んだりすると楽しいです。編み物や織物をやったことが無い人でも大丈夫。100円ショップでは 、「ニットメーカー」という簡単にあみものができる道具が売られています(写真上)。また、「手織りツール」という織物が簡単にできるキットも売られています(写真下)。これらを利用して、草木染めで染めた糸で布を作るのも楽しいでしょう。
 みどりのサポート隊では、草木染めの糸で壁飾りができないかチャレンジしてみる予定です。


楽しみながら外来種対策を行う

 5月頃、土手などが真っ黄色になるほど花を咲かせる植物があります。オオキンケイギクという北アメリカ原産の外来種です。繁殖力が強いので、環境省の特定外来生物に指定されていて駆除の対象となっています。この植物は法律(特定外来生物法)で栽培はもちろん、タネや根が生きた状態での移動が禁止されています。しかし、その花からは草木染めできれいに染まる染色液が取れます。タネや根を含まない状態で花を集め、念のため現地でアルコールで固定するなどの配慮した上で持ち帰へれば、オオキンケイギクのタネが新たに作られず、分布拡大を防ぐことができますので、外来種対策の一つとなります。駆除のための除草や草刈りは、なかなか大変で、何度も続けるのが難しいですが、草木染めの楽しみなどの要素を加えると、楽しみながら外来種対策を進めていくことができます。

 特定外来生物は慎重に扱う必要があります。特定外来生物「オオキンケイギク」のページ もご覧ください。


 写真:オオキンケイギクで染めた布(左)、無染色(右)






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