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このページについて

 「とっても簡単!草木染め」のページで草木染めについて解説しましたが、そこには載せきれなかった情報を書いていきます。

アルカリ処理とは

 常温クエン酸抽出・染色法(常温染め)で染めた布をアルカリ性の液に浸けると、色がわかる場合があります。赤い色が青くなったり、黄色のものが鮮やかになったりします。ただ、アルカリは二酸化炭素を吸って酸性側にかたむきますので、布を乾燥させている間に色の鮮やかさが消える場合もあります。アルカリ性の液は草木灰に水を混ぜた上澄み液を使いました。ツバキ灰の灰汁は、アルミニウムをたくさん含んでいるので、媒染剤にも用いられます。

菜の花の花びらで染めた綿の布.左;常温クエン酸抽出・染色法、右;それを灰汁につけてアルカリ処理したもの.灰汁中ではこのくらい鮮やかな黄色ですが、乾燥中に薄くなってしまう.


キッチンで草木染め

 常温染めの最も得意なところは加熱をしないので、鍋などの道具が少なくてすみますので、どこでも草木染めができることです。キッチンで野菜を切っていたら色のついた皮がでるでしょう。それを捨てずに、ガラス瓶に入れて水とクエン酸を入れておけば染色液ができあがります。あとは皮を取り除いて、布を浸してしばらくおいてやります。面倒くさければ皮はそのままで、布を入れてやることもできます。ただ、ゴミがつくので染色後布をよく洗う必要があります。
 タマネギの皮は乾燥させた状態で集めておきましょう。通常の加熱する草木染めでも黄色の染料が簡単に取れることで有名ですが、常温染めでも大丈夫です。最後にアルカリ処理してやると、柔らかい黄色が出ます。
 紅茶を飲んだ後のティーパックも捨てずにためておきましょう、これも優しいオレンジが出ます。ナスの皮もビニール袋に入れて冷凍しておきましょう。たくさんたまったら草木染めをやってみましょう。タケノコの皮もきれいなピンク色になります。こうなると捨てるものが無くなってきます。また、料理をする時や買い物をする時などとても楽しくなってきます。
 簡単にできるからこそ、何度でもやり直せる、色が消えてしまたったら布を漂白して、再度染めることもできます。そんな良さが常温染めにはあります。


常温染めで染まる糸・布

 草木染めは動物性(絹や羊毛など)か植物性(麻や綿など)でしか染まらず、化学繊維はほとんど染まらないと言われています。ただ、布についているタグ(おそらく化学繊維)もよく染まりますので、化学繊維だから染まらないということでもないようです。
 ではどんな糸が染まるのか、100円ショップで売られている糸を中心に試してみました。染色材料はオオキンケイギクの花で、豆乳処理はしていません。

左からアクリル100%、ポリエステル100%、アクリル85%とウール15%、アクリル75%とウール25%、ジュート100%、クズの皮.

 羊毛(ウール)は染まりにくく、綿はよく染まることは今までの結果からわかっています。これで見ても、ジュートとクズの皮といった植物性の繊維(セルロース)がよく染まっていることがわかります。羊毛もやや染まりますので、羊毛と化学繊維が混ざったものは少し染まっています。化学繊維のみのものはほとんど染まりませんでした。ちなみに羊毛は染まりにくいのですが、絹は常温染めでよく染まります。ただ、価格がちょっと高いので気軽にためすことができないのが難点です。

レーヨン(人絹)は常温染めで染まる

 レーヨンは絹に似せてつくられたので人絹とも呼ばれます。セルロースを一旦溶かして再生した繊維ですが、石油を原料としたポリエステルなどの科学繊維と違い常温染めで染まります。

オオキンケイギクでの常温染めで染まったレーヨン。左から上損染め+アルカリ処理、常温染め、無染色(比較用)

 人絹ということもあって絹のようによく染まっています。

染色液を濃くしたい

 材料が少なかったり、何日もクエン酸につけ込んでも薄い染色液しか出ないことがあります。濃く染める場合は濃い染色液を使いたいのですが、通常の加熱する草木染めでは、液を煮詰めてやってその濃さを調整することが可能です。常温染めではどうすれば良いのか課題でした。
  ペットボトルに抽出した染色液を8分目くらいまで入れます。それを冷凍庫で1晩以上氷らせます。かちこちに固まったら、室温でゆっくり溶かします。氷らせたジュースで経験がある方もおられるでしょうが、最初の方は濃い液が出ます。それを容器に移していきます。最後は水のように薄くなりますので、ある程度薄くなったら、氷は捨ててしまいましょう。1度でダメなら何度かくりかえしていけば、濃縮された染色液ができあがります。右の写真はドングリの殻(殻斗)をクエン酸でつけ込んだ液ですが、濃縮処理していない右に比べて、冷凍で濃縮した左が濃くなっているのがわかります。


常温染めでダメだったピーマン

 ある時スーパーマーケットに行ったら、カラーピーマンが売っていました。赤や黄色オレンジなどきれいな色なので早速買ってきて、クエン酸につけ込みましたが、赤や黄色のカラーピーマンの色を抽出することはできませんでした。他にも人参の赤は抽出できないなど、色を取り出すことができないものがいくつかあります。
 当たり前ですが、植物が持っている色素にはいろいろなものがあり、アントシアンなどがクエン酸抽出で取り出しやすかったので常温染めができたわけです。全ての色に対応している方法ではありません。たぶんこのような色はある薬品を使えば抽出できるかとは思いますが、今後の課題としておいておきます。



やってみてわかる藍染めのすばらしさ

 この企画は「草木染め」めのトップにも書きましたが、「身の回りの自然を楽しむ一つの手法としての「草木染め」で植物や自然の面白さを体験すること」が目的です。したがって、伝統的な染料であるアイ(藍)やベニバナなどはわざと避けていました。しかし、こうした体験をしていると藍染めのすばらしさの一端がみえてくるようになりました。

・他では難しい青が出る。
・色落ちがしにくい(専門用語で堅牢性が高い)。
・木綿の染色が簡単。
・すくもの状態で保存、移動できる(時期、場所を選ばない)。
 クエン酸抽出では酸性溶液なので青い花も赤くなりますので、青色の抽出が難しいのです。アルカリ処理をして、一旦鮮やかな青が出ても消えていきます。このあたりは課題として、クサギの実やツユクサの花など、また、ヤマアイの根にあるという青色色素などを使って、青色に染めることができないか試行する予定です。
 アイについては生葉染めもできるので、栽培してクエン酸抽出でどうなるのかは試す予定です。また、同じ属のタデの仲間はどんな色に染まるのか、まだまだ、おもしろいことはたくさんありそうです。

緑色の草木染め

 青とともに草木染めで出しにくい色が緑色です。藍と黄色の植物を重ね染めしたりして苦労しているようです。最近では葛の葉を重曹で抽出して緑色を出す方法も開発されているようです。
 植物をやっている人間から言わせると緑色はクロロフィルの色なので、あの薬品を使えば簡単に抽出できるかと思い、やってみたらうまくいきました。材料はヒゼンマユミの葉ですが、他の葉でも可能です。糸は羊毛で、写真の左がミョウバンで、右が酢酸銅媒染です。まだ、草木染めをはじめた頃なので、通常の加熱する染色法です。なじみも深く、入手も簡単な薬品ですが、加熱すると危険なので、残念ながら現段階ではやり方は公開できません。常温で染められたらよいのですが、これも課題の一つです。

菅の根で草木染め

 草木染めの資料を集めようとしてネットを検索していたら、万葉集に次のような歌があるそうです。

  真鳥住 卯名手之神社之 菅根乎 衣尓書付 令服兒欲得
  真鳥棲む 雲梯の杜の 菅の根を 衣にかき付け 着せむ子もがも

 「衣にかき付け」というのは摺り染めという手法で、色(染色液)を布にすりつけるようにして染めるやり方のようです。文学に縁のない者としては、「菅の根を」というとスゲ属の植物の根を使った草木染めだろうと思ってしまいました。スゲで布が染まるなんて、スゲの会のメーリングリストにでも投稿したら、さぞかしみなさんが喜んでくれるのではないかと思いました。根で染めるというのはちょっと難しいかもしれませんが、カサスゲだと根元の方(基部の鞘)が赤くなるのでそれを使えば染まるかなというところです。しかし、しらべていくとちょっとおかしなことになりました。
 まず、「菅」が「スゲ」ではなく、「スガ」であり、スゲ属の植物でないということのようです。 偉大な植物学者である牧野富太郎氏の「植物記」の「万葉集スガノミの新考」では、万葉学者は「菅」をヤマスゲとしており、それはジャノヒゲ(リュウノヒゲ)であると書いています。しかも、「菅の根」は「本文は根とある」としながらも、「菅のみ(実)」と記しています。すなわち、万葉学者は「菅の根(実)」はジャノヒゲの実であるとしているが、ジャノヒゲの実のように見えるのものは実は種子で、これで染まらないので間違いであると一刀両断しています。そして、牧野氏は「菅の実」はガマズミの実であるとしています。ガマズミは赤い実をつけ、牧野氏はそれをスケッチする時に、その色と同じ色に塗ろうとスケッチの用紙にガマズミの実をこすりつけています。そのスケッチは今も残っていて、牧野植物園にあり、昔当館で博物画の企画展を開催した時に借りてきたので実物を見たことがあります。
 万葉学者の方の言うことが正しいのか、牧野富太郎氏の言うことが正しいのかは、浅学な筆者としてはわかりません。ただ、どちらの説でも、スゲ属の植物で染めたのではないということなので、ちょっと残念です。カサスゲの基部の鞘はいかにも染まりそうですし、ジャノヒゲの種子も深い青色で、これで染まるときれいなのにと思っておりましたので、機会があったら試してみたいと思っています。



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