四国の鉱物
◆ 紅簾石Piemontite
図6-3
紅簾石石英片岩中の紅簾石
【徳島市眉山 左右 2cm】
図6-4
徳島城の石垣
【徳島市徳島中央公園】
ピンク色をした紅簾石石英片岩が一部(たとえば正面右辺中央の石)に使われている。
三波川変成帯の中にある徳島市眉山には、「阿波の青石」(緑色片岩)などのさまざまな結晶片岩類が分布しています。その中腹の遊歩道ぞいの一角に、縞模様のある紅色〜淡赤色のきれいな岩石が露出している場所があります。かなり以前に誰かがここで大量に採集をしたらしく、最も赤い部分が大きく掘られて窪み、落ち葉や雨水が溜まっています。
この岩石は紅簾石石英片岩(紅簾片岩)で、紅簾石というマンガンを含んだ濃赤色の鉱物を多量に含んでいます(図6-3)。この結晶は小さすぎて肉眼では見えないことが多いのですが、眉山産紅簾石は肉眼で結晶の形が分かるものもあります。
かつては紅簾石はマンガン鉱床特有の鉱物と考えられていました。ところが1887年(明治20年)に、東京大学地質学教室初代教授の小藤文次郎氏は、眉山(大滝山)の結晶片岩が紅簾石を含むことを見いだし記載しました。それまで紅簾石のこのような産状はまったく知られていなかったので、眉山とそこから産出する紅簾石石英片岩は、世界中に知られるところとなりました。
紅簾石を多く含む結晶片岩は、その後、三波川変成帯の各地(埼玉県長瀞、愛媛県四国中央市など)や北海道、新潟などいろいろなところで見つかっています。四国の三波川帯変成帯では珍しい岩石ではありません。徳島城の石垣の一部にも紅簾石石英片岩が使われています(図6-4)。
現在、紅簾石石英片岩の源岩は赤色チャートで、紅簾石のマンガンはもともとは深海底の赤色粘土中のマンガンに由来することが分かっています。